だ。僕が今まで云ったことはただ心の問題ばかりだった。人によっては呑気《のんき》にくらして行かれることだったのかもしれない。ところがどうだ。僕は結婚後一年程たってから蓉子に不思議な挙動のあるのを見出したんだ。」
「何? なんだって?」
「妻としてあるまじき振舞だ。けしからん挙動だ。」
「と云うと?」
「君にはまだ判らないのか。妻としてあるべからざる振舞だよ。……つまり、僕は蓉子を身体の方面でも完全に独占してはいないということを見出したんだ。」
「…………」
「君はまさかと思うだろう。驚いたろう。しかし事実なんだからね。蓉子はしばしば僕の留守に自分も出かけるようになりはじめた。たとえば、君に身体を診てもらうというようなことを云っては出かける。そうして君にあとできいてみると、またはその時君の家へ電話でもかけると、それは嘘だったということがすぐわかったんだ。……蓉子の奴、身体まであいつに任せたんだ。」
「あいつとは誰だ?」
「無論米倉三造さ。」
「奥さんがそんなことを云ったかい?」
「馬鹿! 君は蓉子を知らないのか。あいつそんなことを白状するやつか。あの女はね、通常以上の女だぜ。女房をほめるわ
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