や三時間でここで今しゃべり切れるものではない。発表し得るものでもない。しかも僕の生命は、今君の云ったように今にも終るかもしれないのだ。云いたいことをすっかり云い切らぬうちに死ぬかもしれない僕なのだ。だから僕はもはや長たらしい詠嘆をくり返すことをやめよう。要するに僕はまず第一に蓉子の心が僕から離れ行くのを感じ、しかもそれに対してどうすることもできない僕を見出したのだ……僕は蓉子の心を信じ切れなくなったのだ。……」
大川はこういうと突然、起き上ろうとした。
石のようになって聞いていた山本は驚いてこれを制した。
「大川、落ちついてくれ。俺ははっきりきいているんだから。」
こういいながら傍の水さしをとって大川の口のところにもって行った。大川は二口ほど水をうまそうに呑んでまた語りつづけた。
「蓉子が僕を愛し切っていない、ということが判ってから、僕はどんなに苦しんだろう。その上仕事はだんだんできなくなって来る。ところで米倉はますます成功して行く。蓉子はしばしば僕と結婚したことを後悔しはじめたような様子さえ、見せはじめた。
ところが、山本、僕はこの上更にみじめな目にあわなければならなかったの
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