んだ。」
「うん、できるだけそうするようにしよう。なんでも云って見給え。」
横たわれる大川の顔色には、犯し難き厳粛な色が現れていた。佇《たたず》める山本の額《ひたい》には汗が浮き出している。彼は大川がどんな問を発するか、片唾《かたず》をのんで待ち構えた。
「医者として答えてくれ給え。僕は助かりはしないだろうね。とても。もう今にも死ぬかもしれないんじゃないか?」
「…………」
「いや、僕の聞き方が悪かったかもしれない。医者なるが故に、君はそれに答えられぬのかもしれない。それなら親友として云ってくれないか。僕はとても助からないんだろう?」
「ああ、決して安心してはいけない状態なんだ。いつ危険が来るかもわからない場合なんだ。しかし、こんな状態で回復した例はいくらでもある。だから絶望とは云えない。」
「ありがとう。けれど君は誤解している。僕は生きようと望んではいないんだ。死ぬなんてことは案外楽なものだぞ。生きよう生きようと努力するからこそ、回復する場合もあるだろう。しかし僕は生きようとは思っていない。だから回復することはない。もう一度ききたい。もし僕が遺言をするとすれば、今するのが適当だろう
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