か。もっと延ばしておいていいだろうか。」
「そうだね、それは君の勝手だ。しかし、するなら今しても差支えないね。」山本は額の汗を拭《ぬぐ》いながら答えた。
「ありがとう。君の云うことは決定的だ、僕にははっきり判る。僕は自殺を仕損じてから今まで、遺言を君にきかせたいために、きいて貰いたいために生きていたのだ。そうして君からききたいことがあるために生きていたんだ。」
「よし、聞こう。云い給え。しかし疲れないように話し給え。君の生命は、それを云い終らぬうちになくなるかもしれない場合なのだ。」
大川が今度は黙った。
沈黙がしばらくつづく。部屋はもう闇になりかかっているのに、山本は電気のスイッチをひねるのを忘れていた。
「君は、僕がなぜ自殺をしようと計ったか、そのほんとうのわけを知っているか。……僕はこの数ヶ月、毎晩死んだ妻の亡霊に悩まされつづけていたんだ。」
「あんなに愛しあっていたんだからなあ……」
「いや、そういう意味ではない。殺された妻の死霊に呪《のろ》われつづけたのだ。」
「どうして?」
「どうして? では君もやはり、世間と同じことを信じているのか。山本。僕は何度妻を殺そうと思ったか
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