なんとなく不気味な感じさえ現われているのである。
傍《そば》には、やはり三十を越えたばかりと見える洋装の男が、石像のごとく佇立《ちょりつ》して、憐れむように寝台《ベッド》の男を見つめている。彼もまた極めて立派な容貌の所有者である。しかし、この厳粛な、否むしろ不気味な静寂は、その容貌に一種の凄《すご》さを与えている。
横たわれるは患者である。傍に立てるは医師である。この病院の副院長である。
突然患者は目を開いた。
立てる男と視線がはっきりと衝突した。立てる医師はふと目をそらす。
患者が云う。
「山本、君一人か。」
医師にはこの質問の意味がはっきり判らなかった。
「え……?」
「この部屋には、今、君と僕と二人切りしかいないのか。」
「ああ、看護婦は階下《した》へやった。用があったから。僕一人だよ。」
「そうか。」
患者はしばらく考えているようであったがふたたび目をとじた。医学士山本正雄は患者が続いて何か云うことを予期していた。しかし患者はふたたび死んだように沈黙した。
今度は医師が声をかけた。
「君、苦しくはないかね。」
「ああ……いや別段……」
ふたたび重苦しい沈黙が襲
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