黄昏の告白
浜尾四郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)夕陽《ゆうひ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)窓|硝子《ガラス》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)※[#感嘆符三つ、98−上−22]
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 沈み行く夕陽《ゆうひ》の最後の光が、窓|硝子《ガラス》を通して室内を覗《のぞ》き込んでいる。部屋の中には重苦しい静寂が、不気味な薬の香りと妙な調和をなして、悩ましき夜の近づくのを待っている。
 陽春のある黄昏《たそがれ》である。しかし、万物|甦生《そせい》に乱舞するこの世の春も、ただこの部屋をだけは訪れるのを忘れたかのように見える。
 寝台《ベッド》の上には、三十を越してまだいくらにもならないと思われる男が、死んだように横たわっている。分けるには長すぎる髪の毛が、手入れをせぬと見えて、蓬々《ぼうぼう》と乱れて顔にかかっているのが、死人のような顔の色を更に痛ましく見せている。細い高い鼻と格好《かっこう》のよい口元は、決して醜い感じを与えないのみか、むしろ美しくあるべきなのだが、生気のまったく見えぬその容貌には、
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