ほど、ますます変化を試みるが、それは決して定石を無視して差すのではなくして、定石に基づき、その上で変化を試みるのであって、いわば定石をさらに発展させて新しい定石を生み出すのである。実戦を重ねるに従って定石を始めて活用できるようになるのだ」というような意味のことを言われたと記憶するが、この木村八段のご注意は非常に深い感銘を私に与えた。
 それぞれ方面は異なっても、その道の名人上手と言われるほどの人びとの言動には、すべての人の心を打つ、教えられるところの多いものがある。木村義雄八段の注意のごとき、われわれマルクス学徒にとっても、いちいち味わうべき教訓に満ちている。マルクス、レーニンの学説を勝手に公式化して、それを機械的に現実問題の解決に適用せんとする者の多い反面において、またマルクス、レーニンの学説の公式的適用が実際問題の解決、現実の闘争の指導においてまったく無力であるということから、直ちに理論を軽視し、無視して偏狭素朴なるいわゆる実践主義に陥る者の多いことは、私らのしばしば見るところである。マルクス、レーニンの学説は、いわゆる悉《ことごと》く書を信ずれば書なきに如《し》かずというような不
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