しばらくは
山のあなたで
啼けばよい

今宵|一夜《いちよ》を
哀別の
涙で共に
語らうよ。


[#1字下げ]小室の小笹[#「小室の小笹」は中見出し]

裏戸覗いて 裏から
帰る
紺の前掛 麻裏《あさうら》草履

あなた一人に
情立てましよと
泣いてわかれた 小室《こむろ》の
小笹《こざさ》

裏戸覗いて 裏から
帰る
紺の前掛 麻裏《あさうら》草履。


[#1字下げ]十二橋[#「十二橋」は中見出し]

ほんに潮来《いたこ》へ
おいでなら
佐原|来栖《いけす》に
お茶屋がござらう

姉さめしませう
のう姉さ
花のかむろが後朝《きぬぎぬ》の
雨は涙で降るぞへのう

一夜《ひとよ》かりねの
手枕に
旅の妻《おかた》と唄はれて
明日は恥《はづか》し のう姉さ

皐月《さつき》照れ照れ
菖蒲《あやめ》も植ゑよ
お女郎《じよろ》見ましよか十六島は
雨の降るのに花が咲く。


[#1字下げ]夕の空[#「夕の空」は中見出し]

日の暮れ方に
空見れば
いつもはかない
ことばかり

すすきをばなは
穂に咲けど
秋の花ゆゑ
さびしかろ

恋は捨てても
空見れば
思ひ出されて
さびしかろ。


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