ない
死んだ母さん、後母さん

奉公にゆきたい
味噌下され
咽喉《のど》に御飯が通らない
死んだ母さん、後母さん


[#1字下げ]曲り角[#「曲り角」は大見出し]

銀行員のFさんは
新しい背広を着て――大足に出ていつた
黒いソフト、光る靴
暖い日の
午前九時頃

曲り角でバツタリ
A子さんと行き逢つた
(オヤ! オヤ!)
すらりとした――
桃割れ、白い歯

Fさんの顔
A子さんの眼
(オヤ! オヤ!)
二人はすれ違ふ
胸の動悸


[#1字下げ]柿の木のエピソード[#「柿の木のエピソード」は大見出し]

背戸の畑の柿が赤くなつて来ると毎日烏が集つて来て喰つてゐた
子供に番をさせて置いても
烏は毎日来た

親父は洗濯竿の先へ
鶏の羽根をぶら下げて
柿の木の傍へ
立てて置いた

鶏の羽根が
ふわふわ動いてゐる
烏は遠くから見てゐて
来なかつた

時折、別な烏が来ても
鶏の羽根が動くとすぐに飛んでゆく
親父も子供も
安心して喜んでゐた

一晩風が吹いた
朝の暗い内から柿の木で烏が鳴いてゐた
洗濯竿が畑の中に倒れてゐる
子供は駈けて来て親父に咄《はな》した


[#1字下げ]曼陀羅華[#「
前へ 次へ
全22ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
野口 雨情 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング