川はここでも本流支流の二つにわかれる。私は支流の須川にそふて上つていつた。およそ二里の川上に湯の平温泉がある。更に二里の川上に花敷温泉がある。二つともこの温泉が川底からわき出してゐるのは奇観である。童謡一篇。
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◇
わいたわいたわいた
川からわいた
わいてこぼれて
須川へ流る
流れ流れて
吾妻川へ
もまれもまれて
大利根川へ
ごんぼごんぼごんぼ
こぼれてわいた
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草津温泉の名物
湯の平温泉から山を一つ越えると『お医者さんでも草津の湯でも……』の草津温泉である。草津温泉には名物の『湯もみ』がある。名所の『賽の河原』もある。不思議な『氷谷』もある。この三つは全く他では見ることの出来ない草津温泉のほこりである。民謡三篇。
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◇
湯揉みやはじまる
湯長《ゆちやう》さんの音頭
音頭はづまにや
湯が揉めぬ
◇
賽の河原で
すまぬと思たが
石の地蔵さま
撫ぜてみた
◇
氷谷かよ
夏でも寒い
岩の中から
風がわく
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私は草津温泉を立つて、吾妻川本流の水源地、上信国境の鳥居峠にむかつた。
長野街道はどこまでも吾妻川の本流にそふてゐる。落葉松の林や白樺の交つた雑木林を見ても、如何にこの辺が高原であるかが思はれる。民謡一篇。
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◇
雑木林で
白布さらす
可愛や白樺
布さらす
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やがて嬬恋をすぎて鹿沢温泉についた。吾妻川の本流は渓流となつてしまつた。これ以上水源の探勝は探勝家にゆだねたい。私の目的であつた大利根の支流吾妻川にそふて、童謡を歌ひ民謡を歌ひながらの旅はこれで終つた。鹿沢温泉は上州唯一の高原温泉で四囲の眺望は雄大である。民謡一篇。
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◇
浅間裾野の
六里が原も
通へ通へと
風が吹く
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底本:「定本 野口雨情 第六巻」未來社
1986(昭和61)年9月25日第1版第1刷発行
初出:「東京朝日新聞」
1926(大正15)年7月29日、8月3日、8月4日
入力:林 幸雄
校正:今井忠夫
2003年11月24日作成
青空文庫作成ファイル:
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