青い眼の人形
野口雨情
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)直《すぐ》に
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)河原|鶸《ひわ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから3字下げ、ページの左右中央に]
−−
[#ここから3字下げ、ページの左右中央に]
童謡は童心性を基調として、真、善、美の上に立つてゐる芸術であります。
童謡の本質は知識の芸術ではありません、童謡が直《すぐ》に児童と握手の出来るのも知識の芸術でないからであります。
童謡が児童の生活に一致し、真、善、美の上に立つて情操陶冶の教育と一致するのも超知識的であるからであります。
本書は大正九年に発行した第一童謡集『十五夜お月夜さん』以後の作中からセレクトした第二童謡集であります。
[#地より1字上げ]金の星編輯部にて 雨情
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]
赤い桜ンぼ
十と七つ
雁《がん》 雁 ならんだ
十《とを》と七つ
七つならんだ
十と七つ
十と七つで
飛んで渡る
雁 雁 この町
啼いて通つた
啼き啼きならんだ
十と七つ
今夜どこまで
飛んで渡る
青い眼の人形
青い眼をした
お人形は
アメリカ生れの
セルロイド
日本の港へ
ついたとき
一杯涙を
うかべてた
「わたしは言葉が
わからない
迷ひ子になつたら
なんとせう」
やさしい日本の
嬢ちやんよ
仲よく遊んで
やつとくれ
かなかな
遠いお山の
蜩《かなかな》は
ひとりぼつちで
なきました
母さん たづねに
出かけませう
父さん たづねに
出かけませう
遠いお山の
蜩は
ひとりぼつちで
なきました
日さへ暮るれば
かーな かな
眼さへさませば
かーな かな
赤い桜ンぼ
赤い 赤い
桜ンぼよ
どこで生れたの
一軒家の
お背戸で
生れたの
ほんたうは
桜ンぼよ
どこで生れたの
ほんたうに
一軒家の
お背戸で 生れたの
乙姫さん
竜宮の 竜宮の
乙姫さんは
トントンカラリン
トンカラリンと
機《はた》を織りました
黄金《こがね》の襷《たすき》を
背中に結んで
トントンカラリン
トンカラリンと
機を織りました
浦島太郎も
トントンカラリン
黄金の襷で
トンカラリンと
機を織りました
千年織つても
トントンカラリン
万年織つても
トントンカラリンと
歌つて織りました
西吹く風
山から
海から
秋が来た
河原の楊《やなぎ》の
葉が
枯れた
渚の 芒《すすき》の
葉も
枯れた
山から
西吹く
風が吹く
海から
山吹く
風が吹く
雀の子供
雀の 子供が
生れたよ
穀倉《こくぐら》の 廂《ひさし》で
生れたよ
昨日は 一羽
今日は 二羽
雀の 子供が
生れたよ
河原の お藪で
生れたよ
昨日は 一羽
今日は 二羽
河原で 生れた
藪雀
廂で 生れた
軒雀
チンチン 啼き啼き
生れたよ
千代田のお城
千代田の お城の
鳩ぽつぽ
鳩ぽつぽ ぽつぽと
啼いてたよ
千代田の 御門《ごもん》の
白い壁
千代田の お濠《ほり》の
青い水
鳩ぽつぽ ぽつぽと
啼いてたよ
上野のお山
上野のお山の
かん烏
神田の子供は
何にしてた
表の 通りで
遊んでた
上野のお山の
かん烏
神田の子供は
何に見てた
何んにも見ないで
屋根見てた
呼子鳥
子供が ゐたかと
呼子鳥《よぶことり》
かつぽん かつぽん
呼子鳥
子供は お山の
靄の中
子供は 谷間の
霧の中
子供が ゐたよと
呼子鳥
かつぽん かつぽん
呼子鳥
屋根なし傘
おぼろお月さんは
花嫁さん
屋根なし傘《からかさ》を
さしてゐる
おぼろお月さんは
花嫁さん
屋根なし傘で
濡れてしまふ
丸い蛇の目の
傘を
おぼろお月さんに
かしてやろ
おぼろお月さんは
花嫁さん
星根なし傘で
濡れてしまふ
山彦
山に 山彦
尾長鳥
呼んでも 呼んでも
ホーイホイ
山の お星さん
はなれ星
待つても 待つても
ホーイホイ
河に 翡翠《かはせみ》
河雀
呼んでも 呼んでも
ホーイホイ
河原の お星さん
はなれ星
待つても 待つても
ホーイホイ
桜と小鳥
いい歌 聞かそ
いい歌 聞かそ
桜の 花の
いい歌 聞かそ
小鳥の 歌の
いい歌 聞かそ
桜の 歌は
どの子に聞かそ
小鳥の 歌は
どの子に聞かそ
あしたの朝は
この子に聞かそ
二つの小鳥
畑で 米磨ぐ
なんの鳥
あれは 畑の
みそさざい
跣足《はだし》で 米五合
磨いだとサ
河原で 機織る
なんの鳥
あれは 河原の
河原|鶸《ひわ》
河原さ 呉服屋
出すだとサ
でんでん虫
今日は 引越しだ
でんでん虫の
引越しだ
ポロポロ雨の 降つてるに
家を負《しよ》つて
引越しだ
どこへ 引越しだ
茶の樹の葉つぱへ
引越しだ
のーろり のろり のろり
家を負つて
引越しだ
おしやれ椿
藪の 中に
咲いてる
藪椿
赤いべに さした
あの花
おしやれ
うしろ向いて
咲いてる
藪椿
赤いべに 貰ほ
あの花
おしやれ
子守唄
父さんなくとも
子はそだつ
母さんなくとも
子はそだつ
雀と遊んで
ゐるうちに
七《ななつ》のお歳の
日は暮れる
父さんなくとも
日は暮れる
なんなん七の
日は暮れる
母さんなくとも
日は暮れる
なんなん七の
日は暮れる
夢を見る人形
赤い靴 ほしがる
お人形さんは
赤い靴 はいてる
夢をみる
赤い靴 ほしがる
お人形さんは
夢で 赤い靴
はいてゐる
赤い帯 ほしがる
お人形さんは
赤い帯 しめてる
夢をみる
赤い帯 ほしがる
お人形さんは
夢で 赤い帯
しめてゐる
帰る燕
燕の 子供が
帰つてゆく
お母《つか》さんに 連《つれ》られて
帰つてゆく
オペラパツク おみやげに
やりませう
来年 お母さんと
またおいで
お母さんと ふたりで
またおいで
一つお星さん
一つ お星さん
海の上
一つ お星さん
屋根の上
千鳥は 渚で
日がくれる
馬は、厩《うまや》で
日がくれる
一つ お星さん
海の上
一つ 一軒家の
星根の上
お人形さんの夢
お人形さんの
昔のお家《うち》は
ガラスのお窓
鳳仙花が
一杯 お庭に
咲いてゐた
お人形さんは
今でも 鳳仙花の
夢を見る
お人形さんは
ガラスのお窓の
夢を見る
昼の月
白いお月さん
昼の月
お月さん子供の
夢みてる
片われお月さん
昼の月
かはい子供の
夢みてる
さらさら時雨
畑の 中の
さらさら
時雨《しぐれ》
さら さら さツと
鶏《とり》が 頸
曲げた
厩《うまや》の 屋根の
さらさら
時雨
さら さら さツと
馬の 耳
濡れた
名所めぐり
柱くぐり
奈良の大仏さんの
うしろの柱
柱よー
二人子供が
柱くぐりしてる
くぐれよー
奈良は日永《ひなが》だ
いつ日が暮れる
子供よー
おれも くぐろか
子供と共に
くぐろよー
弁慶の鐘
むかし
むかしの
ことだちけ
鐘から
鏡が
出ただちけ
むかし
むかしの
ことだちけ
弁慶さんが
かづいた
鐘だちけ
貝遊び
一つ 貝殻
拾ひませう
二つ 貝殻
拾ひませう
お歳の 数ほど
拾ひませう
一つ 貝殻
数へませう
二つ 貝殻
数へませう
お歳の数ほど
数へませう
和歌の浦
船は帆かけて
四国へ
渡る
沙を踏み踏み
啼いた啼いた
千鳥
波はざんぶと
渚に
寄せる
かけて歩いて
啼いた啼いた
千鳥
霜柱
ザツク ザツク
踏んだ
踏んだ
霜柱
雀に
踏ませて
遊ばせよう
踏んだ 踏んだ
ザツク
ザツク
霜柱
雀も
踏み踏み
遊んでる
お乳飴
お乳 お乳と
泣く児のお母《つか》さん
鵜戸《うど》の窟《いはや》の
お乳飴なめた
トドロ ドンドン
サーラ サラ
鵜戸のお乳飴
お母さんがなめた
乳なしお母さんの
乳が出た
トドロ ドンドン
サーラ サラ
観音のおびんづる
観音さんの おびんづるは
鼻を撫でられる
撫でやれ 撫でられ
鼻ぴく おびんづるになつちやつた
観音さんの おびんづるは
顋《あご》を撫でられる
撫でられ 撫でられ
顋なし おびんづるになつちやつた
観音さんの おびんづるは
顋なし鼻ぴく おびんづる
姨捨山
姨捨山《をばすてやま》に
捨てられた
姨は帰つて来なかつた
山から
山へ
山彦は
谷から
谷へ
山彦は
山|時鳥《ほととぎす》は
帰つても
姨は帰つて来なかつた
阿弥陀池
大阪堀江の
お寺の池は
どぶどぶ泥池だ
百済《くだら》から来た
お阿弥陀《あみだ》さまは
どぶんと捨てられた
今は 信濃の
善光寺さまの
お阿弥陀さまだ
むかし 堀江の
どぶどぶ池に
どぶんと捨てられた
長柄の橋
ここは大阪の どこの町
ここは長柄《ながら》の 町つづき
長柄の橋は 人柱
雉子雑子 啼くな 雉子啼くな
雉子も啼かずば 打たれまい
この児も泣かずば 遣《やら》れまい
おー おー 恐い おー恐い
雑子雉子 啼くな 雉子啼くな
田甫の狐
重い車
牛の顔を 見てゐたれば
涙がこぼれた
重い車を 曳かせられて
泣いてゐるんだよ
可哀想で 可哀想で
しやうがない
牛の足を 見てゐたれば
足が痩せてゐた
重い車を 曳かせられて
痩せてゐるんだよ
可哀想で 可哀想で
しやうがない
重い車を 曳きながら
ぢーつと後《あと》を見た
仔牛に 逢ひたくて
後を見るんだよ
可哀想で 可哀想で
しやうがない
舌切雀
舌切雀は
可愛い雀
たすきをかけて
お庭はきしてる
サラリ サラ サラ
サツサラリ
[#地付き](お庭をはく音)
舌切雀は
可愛い雀
おふろをたてて
おぢいさんを待つてた
コント コト コト
コンコトリ
[#地付き](おふろのわく音)
舌切雀は
可愛い雀
づきんをぬつて
おぢいさんにとどけた
チツク チク チク
チツ チクリ
[#地付き](おぬひものする針の音)
駈けくら
駈けくらしませう
駈けくらしませう
お庭の中で
駈けくらしませう
負けると 泣くから
駄目だわよ
駈けくらしませう
駈けくらしませう
御門《ごもん》の外で
駈けくらしませう
転ぶと 泣くから
駄目だわよ
下駄ぬいで 泣くから
駄目だわよ
沙の数(手まり唄)
一つこぼれた
沙の数 沙の数
百万五千と
かぞへました かぞへました
百万五千の
沙の数 沙の数
かぞへてみたさに
まゐりました まゐりました
二つこぼれた
沙の数 沙の数
かぞへきれずに
帰りました 帰りました
乙鳥の姉さん
あかい紅《べに》渡せ
お猪口《ちよこ》で渡せ
乙鳥《つばめ》の姉さん
あかい紅渡せ
お手手をお出し
お猪口で渡そ
お手手を出した
あかい紅渡せ
あかい紅渡そ
お猪口で渡そ
乙鳥の姉さん
あかい紅渡せ
とんび
鳶《とんび》が 輪をかいた
ぴーヨロぴー
油屋の屋根へ来て
ぴーヨロぴー
豆腐屋の屋根へ来て
ぴーヨロぴー
鳶が 屋根へ来た
ぴーヨロぴー
油屋の 油壺
ぴーヨロぴー
豆腐屋の 揚豆腐
ぴーヨロぴー
朝鮮飴や
朝鮮飴やは
飴トロリ
子供に飴売つて
飴トロリ
トロリ トロリ
飴トロリ
トロトロとろける
飴トロリ
子供が飴買つて
飴トロリ
トロリ トロリ
飴トロリ
三日月さん
山の上の 三日月さんは
細いこと
柳の葉よりも
細いこ
次へ
全3ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
野口 雨情 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング