薄《すすき》に切られた
薄に切られた

山の上の 三日月さんは
細いこと

つむいだ糸より
細いこと

薄に切られた
薄に切られた


 雀の酒盛り

雀が 米倉 建てたとサ
なーんのこツた なーんのこツた
みそさざい

畑さ 干物 ほしたとサ
見たのか 見たのか
みそさざい

雀が 酒盛りしてたとサ
なーんのこツた なーんのこツた
みそさざい

酒樽 叩いて飲んだとサ
見たのか 見たのか
みそさざい


 鈴なし鈴虫

鈴をなくした
鈴虫は
鈴をさがしにいきました

一軒家の表を
のぞいたり
一軒家の裏戸を
のぞいたり

鈴がないか
鈴がないかと
いひました

どこをさがして
あるいても
なくした鈴は
ありません

鈴をなくした
鈴虫は
鈴なし鈴虫になりました


 あられとみぞれ

あられは
パーラ パラ

お屋根に
パーラ パラ

雀も
パーラ パラ

お背戸で
パーラ パラ

みぞれは
サーラ サラ

お屋根に
サーラ サラ

雀も
サーラ サラ

お背戸で
サーラ サラ


 鼠の米搗き

鼠の米つき
鼠の米つき
  コラキタ コラキタ
  コラサノサ

一の臼には
お米が一粒
  テンキ ポンキ
  テンキ ポンキ
  コラサノサ

三の臼には
お米が三粒
  テソキ ポンキ
  テンキ ポンキ
  コラサノサ

鼠が米つく
鼠が米つく
  コラキタ コラキタ
  コラサノサ


 縄とび

一つとんだ
   とんだ
縄とんだ
   とんだ

二つとんだ
   とんだ
横丁で
   とんだ

 ばたり ばたりと
 下見てとんだ

三つとんだ
  とんだ
お向ふで
  とんだ

四つとんだ
  とんだ
上手に
  とんだ

 さらり さらりと
上見てとんだ


 鬼さん遊び

鬼さん来ないうち
 ざんぶざんぶ 水汲《みづく》も
 跣足《はだし》で水汲も

一の井戸から
 手桶で水汲も
 ざんぶざんぶ 水汲も

三の井戸から
 釣瓶《つるべ》で水汲も
 ざんぶざんぶ 水汲も

鬼さん来ないうち
 ざつくざつく 米磨ご
 跣足で米磨ご

一の井戸から
 水汲んで米磨ご
 ざつくざつく 米磨ご

三の井戸から
 水汲んで米磨ご
 ざつくざつく 米磨ご


 秋の夜

秋の夜長に
こほろぎは
コロコロコロコロ
糸をひく

寒さが来るから
来るからと
コロコロコロコロ
糸をひく

子供が寒むがる
寒むがると
コロコロコロコロ
糸をひく

寒さが来るから
こほろぎは
子供の着物を
織る気だろ


 田甫の狐

昔わたしの生まれた村の田甫《たんぼ》に古狐がゐました。若い女に化けて旅人をだました話があります。

  田甫の狐は
  赤い櫛さして
  赤い帯しめて
  うしろ姿見せて
  三味線弾いてた

それから風船玉に化けて村の子供をだまさうとした話もあります。

  田甫の狐は
  芒《すすき》の蔭で
  赤い風船 飛ばした
  青い風船
  飛ばした

ある時は河童のお芥子《けし》坊主と畑の中で酒盛をしてゐた話もあります。

  田甫の狐は
  河童の
  お芥子坊と
  畑の中で
  小酒盛してた


 隣村の狐

わたしの生れた村の隣村の田甫《たんほ》にも悪い古狐が居ました。ある時おさよと云ふ村の娘に化けて五兵衛さんの家の裏を馬に乗つて通りました。

  田甫の狐は
  瘠馬《やせうま》に乗つて
  三度笠かぶつて
  五兵衛さん家《いえ》の
  裏の道通つた

  五兵衛さんが見たら
  笠で顔隠した
  「おさよか」と、聞くと
  「そだよ」と云つて
  笠で顔隠した

  「どこへ行く」と、聞くと
  「越後の国さ、茶摘みに行くよ
  五兵衛さん行かう」と
  尻尾出して
  見せた

また、ある時はお医者さんに化けてあるきました。

  田甫の狐は
  薬箱さげて、自足袋はいて
  お医者さんにばけた

  犬がかけて来たら
  薬箱投げて 河原の籔さ
  逃げこんぢやつた

  犬が行つてしまふと
  河原の籔に 首だけ出して
  あつち こつち見てた


 青野の森

あるとし、わたしの生れた村の田甫《たんぼ》の狐が隣村の青野の森へお嫁にいつた話があります。

  田甫の狐は島田に結つて
  青野の森さ
  お嫁になつた

  青野の森の
  聟さん狐
  とんがりお口

  青野の森の
  嫁さん狐
  とんがりお口


海ひよどり

 磯の千鳥

磯が涸れたと
啼く千鳥
沙の数ほど
打つ波は

 昨日《きのふ》一日
 今日二日
 磯が涸れたと
 云つて啼く

磯が涸れたと
啼く千鳥
どんど どんどと
打つ波は

 親の千鳥も
 子千鳥も
 磯が涸れたと
 云つて啼く


 赤い靴

赤い靴 はいてた
女の子
異人さんに つれられて
行つちやつた

横浜の 埠頭《はとば》から
船に乗つて
異人さんに つれられて
行つちやつた

今では 青い目に
なつちやつて
異人さんのお国に
ゐるんだらう

赤い靴 見るたび
考へる
異人さんに逢ふたび
考へる


 螢のゐない螢籠

螢のゐない 螢籠
螢は
飛んで 逃げました

今朝目がさめて 見たときに
螢は
飛んで 逃げました

青い ダリヤの葉の上を
急いで
飛んで 逃げました

高い お庭の木の上を
急いで
飛んで 逃げました

螢のゐない 螢籠
さびしい
籠に なりました


 ひばり

雲雀《ひばり》は歌を
うたつてる

畑の歌を
うたつてる

朝から晩まで
うたつてる

菜種が咲いたと
うたつてる

げんげが咲いたと
うたつてる

ピーチー ピーチー
うたつてる


 月の夜

機織《はたおり》虫は
月の夜に
芒《すすき》にとまつて
機を織る

 カンカラ コン
 カンカラ コン

まだ夜は明けない
明けないと
芒にとまつて
機を織る

 カンカラ コン
 カンカラ コン


 くたびれこま

かんぶり ふりふり
かんぶり ふりふり

くたびれました
くたびれました

赤いこまが
くたびれました

かんぶり ふりふり
かんぶり ふりふり

くたびれました
くたびれました

青いこまが
くたびれました


 海ひよどり

磯にとまつて
海|鵯《ひよどり》は
海の向ふの
夢をみた

海の向ふに
小さい船が
赤い帆かけて
走つてる

赤い帆かけた
小さい船に
いつか別れた子供が
乗つてる

船と子供を
海鵯は
磯にとまつて
夢にみた


 河原の河童

夜更けに 子供が
歩いてる

頭に お皿が
載つてゐた

河原の 河童の
子供だよ

河原で 夜更けに
火が燃える

雨夜の晩だに
火が燃える

河童の 子供が
燃すんだよ


 鳩さんはだし

少女『鳩さん はだしで
どこへゆく

鳩『遠い田舎へ
お使ひに

少女『鳩さん 急いで
いつておいで

鳩『はだしで 急いで
いつて来ましよ

少女『鳩さん あばよ
鳩『嬢《じよ》つちやん さよな

少女『鳩さん 急いで
いつておいで


 海女が紅

港の 空に
海女が紅《べに》
刷いた

港の 空に
赤い帯
ほした

信濃の国も
夕焼け
焼けるぞ

信濃の子供
帯まで
焼けるぞ

    (註。海女が紅は方言夕焼のこと)


 雀遊び

甲の少女
 『雀の子供が
 乳飲んでる

乙の少女
 『お母《つか》さんにだつこして
 乳飲んでる

甲乙の少女
 『雀のお母さん
 乳おくれ

雀のお母さん
 『雀におなりよ
 乳飲ませう

甲乙の少女
 『雀になつた 雀になつた
 チツチツチ チツチツチ


 起き上り小法師

達磨《だるま》さんの小法師は
転げていつた

転げていつて達磨さんは
起き上つた

三番叟《さんばそう》の小法師も
起き上つた

ころころ転げていつて
起き上つた

奴《やつこ》さんの小法師も
転げていつた

転げていつて奴さんも
起き上つた

起き上つて奴さんは
「お早やう」と云つた


 渡りやんせ

渡りやんせ
   渡りやんせ

さつさとこの橋
   渡りやんせ

雨が降つて来る
   渡りやんせ

雨が降つて来りや
   水増しぢや

橋が流れる
   渡りやんせ

渡りやんせ
   渡りやんせ

あとから続いて
   渡りやんせ

橋が流れる
   渡りやんせ


 佐渡が鳥

海に海鳥
鴎鳥

海の遠くは
どこの国

あれは越後の
佐渡が島

波々打つな
波打つな

佐渡は越後の
離れ島


風鈴

 つば子

つば子が来てる
つば子が来てる

つばめの子供の
つば子が来てる

つば子よお母《つか》さんと
来たのかい

お母さんはあとから
まゐります

一船《ひとふね》おくれて
まゐります

つば子が来てる
つば子が来てる

一船さきに
つば子が来てる

    (註。つば子とは燕の子に仮につけた呼び名です)


 釣鐘草

小さい蜂が
来てたたく

釣鐘草の
釣鐘よ

子供が見てても
来てたたく

大人が見てても
来てたたく

釣鐘草の
釣鐘よ

静かに咲いてる
釣鐘よ


 青い月夜

いとどの虫よ
今夜は月夜だ

土蔵の蔭で
細い糸ひけよ 糸ひけよ

どの家の屋根も
青い青い月夜だ


 木兎

夜啼く
木兎《みみづく》は
あーれはさ
夢がほしくて 夜啼くだ

さーらば
獏々《ばくばく》
夢とつた

夢なし
木兎は
こーれはさ
夢がみたくも 夢なしだ

さーらばさ
獏々
夢かへせ


 風鈴

風鈴さんが
ちんちん鳴ると
涼しさう

ちんちん鳴つた
ちんちん鳴つたと
大人も子供も
よろこんだ

秋になると
風鈴さんは
かはいさう

ちんちん鳴つても
いつまで鳴つても
子供も大人も
だまつてる


 お歳は二つ

お歳は二つ
おりこうな児だよ

お母《つか》さん
見ると
おいで おいでしてる

わんわを
見ると
ハイチヤ ハイチヤしてる

おりこうな児だよ
お歳は二つ

おもちやの
人形に
おいで おいでしてる

お庭の
雀に
ハイチヤ ハイチヤしてる


 波がざんぶりこ

渚にざんぶりこ
波がざんぶりこ
千鳥が逃げた
千鳥が逃げた
波がざんぶりこ

ほーら 逃げた
とつとと逃げた
波がざんぶりこ

磯にもざんぶりこ
波がざんぶりこ

子蟹が逃げた
子蟹が逃げた
波がざんぶりこ

ほーら 逃げた
ちよろちよろ逃げた
波がざんぶりこ


 蟻と砂糖

見せよう
見せよう
蟻に砂糖見せよう

蟻に砂糖見せると
行列つくつて
なめに来る

隠そ
隠そ
蟻に砂糖かくそ

蟻に砂糖見せると
なめに来るから
隠そ


 五つの指

おとしは
いくつ
一本
指出した

おやおや
ひとつ
三本
指出した

ほんとは
いくつ
四本《しほん》
指出した

ほんとに
いくつ
みんな
指出した


 牧場の仔牛

雨の降る日は
親牛に
仔牛はだかれて
ねんねしてる

桶から水飲んで
草食べて
眼々あいて仔牛は
ねんねしてる

雨の降る日は
永いこと
牧場の日ぐれは
遅いこと

雨々 もつと降れ
雨こんこ
仔牛はだかれて
ねんねしてる


 ねむりぐさ

日暮れにや
   ならぬ
まだ日は
   高い

ねむりぐさ
   下つた
眠るにや
   早い

はたけの
   中へ
ねむりぐさ
   捨てよ

ねむりぐさ
   とりに
灯とり虫ヤ
   来てる


 おぼろお月さん

おぼろお月さん
歳ヤいくつ

十《とを》と六つ寝りや
十と六つ

おぼろお月さん
歳ヤいくつ

十と三つ寝りや
十と三つ

十三七つにや
まだ遠い

おぼろお月さん
十と一つ



底本:「定本 野口雨情 第三巻」未来社
   1986(昭和61)年3月25日初版第1刷
   1996(平成8)年5月31日初版第2刷
底本の親本:「青い眼の人形」金の星社
   1924(大正13)年6月発行
※本作品中には、身体的・精神的資質、職業、地域、階層、民族などに関する不適切な表現が見られます。しかし、作品の時代背景と価値、加
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