るうち東京へ来て、中学校へ入学などして、正月の休みの時に帰省したりした。或時東京へ戻る途中藤田氏をお訪ねするために水戸へ下車した。すると、藤田氏が、
「小川君も次の汽車で牛久へ戻られるから、君もその汽車で行かれたら好都合です」
と言はれた。
「小川君とは俳人の方ですか」
と私は聞いた。芋銭先生が画家であることを知らなかつたからだ。
「いや、画家です。昨夕も大工町へ行つて酒に酔つて、芸者の半巾やいろいろなものへ河童を描いた。河童は天下一品です。お酒はいくらでも飲みます。この次の汽車ですから、君等をお送りして行かう」
時間が来たので、いばらき新聞社を出た。新聞社から停車場は近い道のりである。果して芋銭先生が居られた。
「君どこへ行く」
芋銭先生が、私にさう言つた。その時、初めてお目にかかつたのであつた。目がお悪かつたやうに記憶して居る。風采は画家らしくない。三十二三歳位ゐであつたらう。芋銭先生も私も三等車であつた。車中で芋銭先生は酒をとり出し、しきりに飲んだ。私にも
「酒はどうです」
と、すすめてくれた。
「飲みません」
と言ふと、
「こんなうまいものはない。酒を飲まぬとは、今の若いも
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