十五夜お月さん
野口雨情

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)海山《うみやま》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)提灯|消《け》え

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、底本のページと行数)
(例)※[#「虫+車」、第3水準1−91−55、22−上−3]
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 蜀黍畑

お背戸の 親なし
はね釣瓶

海山《うみやま》 千里に
風が吹く

蜀黍《もろこし》畑も
日が暮れた

鶏 さがしに
往かないか。


 螢の提灯

螢の提灯光つてる
ぴかん ぴかん光つてる

早くみんなで追つかけよう

螢の提灯考へた
ぴかん ぴかん考へた

早く提灯とつちまい
螢の提灯|消《け》えちやつた
つーん つーん消えちやつた

早く蝋燭見せてやれ。


 豊作唄

山椒《さんしよ》 山椒の木で
雀が啼いた

足で 山椒踏んで
山椒の木で啼いた

豆も 小豆も
莢《さや》から はしる

麦も 小麦も
みな たれさがる

山椒 山椒の木で
雀が啼いた

山椒 山椒踏んで
山椒の木で啼いた


 日傘

わかれた 母《かか》さん
日傘《ひがらがさ》
物言うて くだされ
日傘

お背戸に 風吹く
篠籔は
烏に 喰はれた
烏瓜《すひかづら》

母さん わたしも
日傘
物言うて くだされ
日傘


 九官鳥

九官鳥に
君が代唄はせよう
「千代に八千代」に
唄はせよう

鸚鵡《あうむ》に
君が代唄はせよう
「巖《いはほ》となりて」と
唄はせよう

わたしも
君が代唄ひませう
「レ・ド・レ・ミ・
ソ・ミ・レ」と
唄ひませう。


 信田の籔

お背戸の お背戸の
赤|蜻蛉《とんぼ》
狐の お噺《はなし》
聞かせませう

糸機《いとはた》 七年
織りました
信田《しのだ》の 狐は
親狐

信田の お背戸の
ふるさとで
子供に こがれた
親狐

お背戸の お背戸の
赤蜻蛉
明日《あした》も お籔に
来てとまれ。


 虹の橋

あつちの町と
こつちの町と
太鼓橋かけた

赤い草履《ぞんぞ》はいて
みんなで渡らう

あの子も 渡れ
この子も 渡れ
仲よく渡れ

虹の橋 高いぞ
手手ひいて渡れ。


 人形屋

人形屋の
小母《をば》さん
髪《かんか》結つてた

元結《もとゆひ》で
むすんで
髪結つてた

人形にも
いい髪
結つておやり

元結で
むすんで
結つておやり。


 雨夜の傘

雨夜の
傘《からかさ》
蛇の目傘

文福《ぶんぶく》茶釜は
化け茶釜

お寺の釣瓶も
化け釣瓶

雨夜に

さして来た。


 燕

燕の母《かか》さん
洒落母さん

そろひの簪《かんざし》
買つてやろ

牛乳屋《ちちや》の表に遊んでた
母さん燕は洒落母さん


 トマト畑

雨降り雲は
なぜ来ない
トマト畑が
みな枯れる

トマト畑に
太陽《おひさま》は
じりりじりりと
照らしてる

雨降り雲は
なぜ来ない
トマト畑が
みな枯れる

トマト畑の
百姓は
赤いトマトを
眺めてる。


 烏と地蔵さん

石の地蔵さん
居ねむりしてた

にこりにこりと
居ねむりしてた

烏アときどき
団子見て啼いた

石の団子で
盗《と》つても駄目だ

石の地蔵さん
駄目団子もつてた

にこりにこりと
駄目団子もつてた。


 冬の日
    (茨城でうまれた文ちやんの唄)

ここの屋敷は
空屋敷
文《ふみ》ちやんうまれた 茨城の
元の屋敷も
空屋敷

ここの畑は
桐畑
文ちやんうまれた 茨城の
背戸の畑も
桐畑

ここの姉《あね》さん
日和下駄
文ちやんうまれた 茨城の
お夏娘も
日和下駄

ここの柱は
木の柱
文ちやんうまれた 茨城の
元の御門《ごもん》も
木の柱


 雲雀の子とろ

こをとろことろ
田甫《たんぼ》の中の
雲雀の子とろ

畑の中に
菜種の花は
ならんで咲いた

厩《うまや》の背戸の
豌豆《ゑんどう》の花も
ならんで咲いた

こをとろことろ
親父は留守だ
雲雀の子とろ。


 赤牛黒牛

赤牛 黒牛
モー モー

あつち向いちや
モー モー

こつち向いちや
モー モー

父《とと》さん 母《かか》さん
モー モー

角が生えてる
キー モー。


 十六角豆

胡麻の木畑は
皆 はねた

十六|角豆《ささげ》も
皆 はねた

雀が畑に
かくれてる

鉄漿《おはぐろ》とんぼに
話して来《こ》。


 葱坊主

ぴュ ぴュ 風が
山から
吹いた

昨日《きのふ》も 今日も
畑 に
吹いた

畑の中の
葱坊主
寒いな。


 鵞鳥

鵞鳥に腹掛け
かけさせて
みんなで遊びに
つれてゆこ

玩具《おもちや》屋の表は
駈けて通ろ
みんなで ならんで
駈けて通ろ

鵞鳥も一緒に
駈けるだろ
長い頸ふりふり
駈けるだらう。


 山椒の木

田甫《たんぼ》の 田甫の
山椒《さんしよ》の木

上総《かづさ》は 鰮《いわし》の
大漁だ

おいらが 父さん
いつ帰る

聞かせて くれぬか
山椒の木。


 山の狐

片親 ない子は
門《かど》で泣く
双親《ふたおや》ない子は
背戸で泣く

雀は 門で啼く
背戸で啼く
狐は 野で啼く
山で啼く

門で泣け 門で泣け
明日《あす》の晩は
山で啼く狐が
背戸へ来るぞ

背戸で泣け 背戸で泣け
明日の朝は
山で啼く狐が
門へ来るぞ。


 烏の小母さん

烏の小母《をば》さん 機織つてた
チンバタ チンバタ
機織つてた

木綿の腹掛 機織つてた
泣く児に
腹掛買つてやれ

烏の小母さん 機織つてた
チンバタ チンバタ
機織つてた

更紗《さらさ》の綿入 機織つてた
泣く児に
綿入買つてやれ。


 赤いマント

家鴨《あひる》は水飲んで
つめたからう

ぐんぶぐんぶ水飲んで
つめたからう

家鴨に赤いマント
買つて着せよう

赤いマント 可愛から
買つて着せよう

マント屋の 赤いマント
買つて着せよう。


 母さん里

母《かか》さん 里は
一本榎

親鳩 子鳩
ならんで見てた

のつぽのつぽ榎
天までとどけ

母さん里へ
餅|負《しよ》つて行つた


 可愛い小鳥

小鳥屋の店は
チツチク チツチク店だ

小鳥屋のお父《とつ》さん
目くちやれお父さん

小鳥のお母《つか》さん
朝寝ンぼお母さん

雌雄《めすおす》二羽の
可愛い鳥だ

小鳥屋の店で
チツチク チツチク啼いてた。


 森の中

森の中の 一本桜に
花が咲きました

朝晩 小鳥が来て
啼いてをりました

一羽の小鳥は
赤い足でした

一羽の小鳥は
青い羽根でした

どつちの小鳥も
いい声でした。


 闇夜

親|貉《むじな》 子貉
今夜は
闇夜だ

ぐつり わつり
和尚は
しぶしぶ提灯出かけたぞ

親貉 子貉
お月さんに
化けろ


 堂鳩

親鳩 子鳩
ほんとの堂鳩《どばと》

畑の中で
啼いてた 堂鳩

お寺の背戸に
鉄砲|打《ぶ》ち通る

親鳩 子鳩
屋根から見てた。


 汐がれ浜

ペンペン草は
どこまでのびる

港の雨は
パラパラ雨だ

汐がれ浜の
小笹にたまれ

小笹もゆれろ
港もゆれろ。


 雉子

雉子が啼いた 雉子が啼いた
山で啼いた

茨に刺されて
雉子が啼いた

雉子が言ふた 雉子が言ふた
山で言ふた

足袋縫ふて はきませうと
雉子が言ふた。


 鼬と雀

ここの家は
引つ越して
雨戸が 締つてをりました

お庭の お庭の
真中に
鼬《いたち》が 歩いてをりました

ここの家は
引つ越して
雨戸が 締つてをりました

お庭の お庭の
木の上に
雀が遊んでをりました。


 鈴虫の鈴

鈴虫 鈴虫
チンチロリン
鈴 どこから持つて来た

母《かか》さんお嫁に
来るときに
番頭《ばんと》に負《しよ》はせて持つて来た

鈴虫 鈴虫
チンチロリン
鈴 ちよつくら貸してみろ

貸したら返さぬ
あーかんべ
番頭に負はせてやつちやつた。


 みそさざい

ちツ ちツ
啼いてる
鷦鷯《みそさざい》

畑に
赤牛
立つてたぞ

雨こんこ
パラパラ
降つて来た

傘《からかさ》
ささせる
こつちへ来《こ》。


 象の鼻

象に猿衣《ちやんちやん》 着せたら
うれしがろナ
赤い帽子 かぶせたら
うれしがろナ

象に靴はかせたら
あるきだそナ
象の足 太いから
重たかろナ

象の眼は 小《ち》さいから
ねむたかろナ
象の鼻 長いから
日が暮れるナ。


 四丁目の犬

一丁目の子供
駈け駈け 帰れ

二丁目の子供
泣き泣き 逃げた

四丁目の犬は
足長犬だ

三丁目の角に
こつち向いてゐたぞ


 柿

五兵衛さん娘が
柿 持つてた
おいらに見せ見せ
柿 持つてた

隣の ぼんちも
柿 持つてた
おいらに見せ見せ
柿 持つてた

柿 買つて食べたい
銭《ぜんぜ》 おくれ
向ふの小母《をば》さん
銭 おくれ

おいらが母《かか》さん なぜ死んだ
おいらにだまつて なぜ死んだ
草端《くさば》の蔭から
柿 おくれ。


 糸切

糸切虫に
どの糸切らせう

ほぐれた糸を
よりより切らせう

糸切虫は
赤い糸切つた

小さな口で
ぽきんと切つた。


 人橋

隣の家は
昨日も るすだ

厩《うまや》の 背戸に
蚯蚓《みみず》が鳴いつた

人橋かけろ
どんど橋
かけろ

姉上さまは
馬に乗つて
行つた。


 ※[#「虫+車」、第3水準1−91−55、22−上−3]

ころころ ころころ
※[#「虫+車」、第3水準1−91−55、22−上−5]《こほろぎ》が
ころころ ころころ
鳴いてゐる

風呂場で 風呂炊く
風呂の火が
煙くて 煙くて
鳴いてゐる

ころころ ころころ
※[#「虫+車」、第3水準1−91−55、22−下−1] が
ころころ ころころ
鳴いてゐる

甕からこぼれた
甘酒を
飲ませておくれと
鳴いてゐる。


 酸漿提灯

おら家《いへ》の 提灯
酸漿《ほほづき》提灯
畑さ 提灯 ぶらさげた

となりの 提灯
酸漿提灯
畑さ 提灯 ぷらさげた

畑の 提灯
酸漿提灯
夜昼 提灯 ぶらさげた


 お山の烏

カツコカツコ帰れ
お山の烏

明日《あした》は 雨だ
カツコカツコ帰れ

鳩ポツポ啼いた
ポツポポツポ啼いた

お山の烏
カツコカツコ帰れ。


 青い青い海

山から
タツチクだ
海から
タツチクだ
タツチク タツチク タツチクだ

父《とと》さん恋し
母《かか》さん恋し

海鵯《うみひよどり》も
タツチク タツチク タツチクだ
青い青い海を
見てたが
いいか。


 迷子

赤い帯しめた
赤い下駄《かつこ》はいた

どなたと行つた
一人で行つた

どこまで行つた
どなたも知らぬ

八幡《はちまん》様の
狐に聞いた。


 鶏さん

雛《ひよこ》の母《かか》さん
鶏さん
鳥屋に買はれて
ゆきました

大寒 小寒で
寒いのに
雛と わかれて
ゆきました

雛に わかれた
母鶏《ははどり》さん
鳥屋で さびしく
暮すでせう。


 十五夜お月さん

十五夜お月さん
御機嫌さん
婆やは お暇《いとま》とりました

十五夜お月さん
妹は
田舎へ 貰《も》られて ゆきました

十五夜お月さん 母《かか》さんに
も一度
わたしは逢ひたいな。


 鼬の嫁入り

今夜は鼬の嫁入りだ
鼬に
長持貸してやれ

厩《うまや》の うしろの
篠籔に
鼬が提灯つけてゐた

厭の うしろの 篠籔は
霜枯れ篠籔
おお 寒い

今夜は鼬の嫁入りだ
鼬に
駒下駄貸してやれ。


 烏猫

烏猫 烏猫
眼ばかり光る
烏猫

のろり のろり 歩いてる
ほんとに狡い
烏猫

矮鶏《ちやぼ》の雛《ひつこ》 追つかけた
尻尾の長い
烏猫

厩《うまや》の背戸に
昼寝しろ
ぐうぐうぐう昼寝しろ

火箸が ぐんにやり曲るほど
たたいてやるから
昼寝しろ。


 百弗

猫の小母《をば》さん
木兎《みみづく》さん
百|弗《どる》貸すから
家建てろ

石で たたんだ
家建
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