てろ
煉瓦で たたんだ
家建てろ

猫の小母さん
木兎さん
小猫《たま》にも百弗
金貸した

百畳 畳が出来て来る
どんどん踏んでも踏みきれぬ
朝晩踏んでも
踏みきれぬ。


 カンカラカン

港の船は
カンカラ カンカラ カンカラだ
ざんぶ ざんぶ 波に
ゆられてゐたぞ

河原の石も
カンカラ カンカラ カンカラだ
どんか どんか 風に
吹かれてゐたぞ

厩《うまや》の馬も
カンカラ カンカラ カンカラだ
長い 長い 顔で
水飲んでゐたぞ。


 兎の耳

兎の足は 跛《ちんば》だナ
耳 切つてつなご
跛《ちんば》だ 跛だ 跛だナ

縛つて切ろか
だまして切ろか
跛だ 跛だ 跛だナ

兎に話すと逃げだすぞ
耳 負《しよ》つて
逃げだすぞ

誰にも黙つて番してろ
耳 見ながら
番してろ。


 時雨唄

雨降りお月さん
暈《かさ》くだされ
傘《からかさ》さしたい
死んだ母《かか》さん 後母《あとかか》さん

時雨《しぐれ》の降るのに
下駄くだされ
跣足《はだし》で 米磨ぐ
死んだ母さん 後母さん

親孝行するから
足袋くだされ
足が凍《こごえ》てあるけない
死んだ母さん 後母さん

奉公にゆきたい
味噌くだされ
喉に飯《まんま》がとほらない
死んだ母さん 後母さん。


 雀の家

雀のお家《うち》は
どこでせう

雀に聞いても
かくしてる

子雀 だまして
聞きませう

学校のうしろの篠籔は
わたしのお家と
云ひました。


 親鶏子鶏

親|鶏《とつと》 子鶏
トツトトツト駆けろ

下駄《かつこ》屋の店で
下駄買つてはかせう

親鶏 子鶏
トツトトツト駆けろ

ニヤアニヤア猫も
下駄 買つて来たぞ。


 留守番

隣の母《かか》さん
継母《ままかか》さん
鼬《いたち》に 留守番
たのんでた

小豆の飯《まんま》は
赤飯
鼬は あかんべ
仕てたツけ

隣の父《とと》さん
よい父さん
鼬に 留守番
たのんでた

小豆の飯は
赤飯
鼬が 留守番
仕てたツけ。


 蜂

蜂 蜂 飛んで来ナ
ちつくり針 置いて来ナ

いつさツさアと遊ぼ

蜂 蜂 飛んで来ナ
ちつくり針 置いて来ナ。


 帰る雁

雁《がん》が 帰る
雁が 帰る
雁が 帰る

襷《たすき》に ならんで
雁が
帰る

山が 暴《あ》れた
海が 暴れた
風で 暴れた

帯になつて
紐になつて
雁が帰る


 機織虫

機織虫《はたおりむし》は
一機 織つた

カンカラ コン
カンカラ コン

田舎は 涼し
凌霄花《のうぜんかづら》

カンカラ コン
カンカラ コン

機織虫と
一緒に 遊ぼ。


 田甫の狐
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昔、或所の田甫《たんぼ》に古狐がゐました。若い女に化けて旅人をだまさうとした噺があります。
[#ここで字下げ終わり]

田甫の狐は
赤い櫛さして
赤い帯しめて
後姿《うしろすがた》 見せて
三味線ひいてた

[#ここから4字下げ]
又、子供をだまさうとした噺もあります。
[#ここで字下げ終わり]

田甫の狐は
芒《すすき》の蔭で
赤い 風船
飛ばした
青い 風船
飛ばした

[#ここから4字下げ]
畑の中で小酒盛をしてゐました噺もあります。
[#ここで字下げ終わり]

田甫の狐は
畑の中に
胡座《あぐら》をかいて
河童の小父《をぢ》と
小酒盛してた。


 青い空

母《かあ》さん 来るまで
姉さんと
青い空 青いから
見てゐませう

二歳《ふたつ》で あんよが
出来たから
母さんゐなくも
ゐられるわネ

青い空 見ておゐで
青い空に
夜になると お星さま
出て来るのよう

母さん 帰りが
遅いときは
門《かど》へ出て 姉さんと
待つてゐませう。


 地蔵さん

空ア火事だ 梯子出せ
頭さ木杭《ぼつくひ》降つてくらア
嘘なら 狸に
聞いて見ろ

狸に聞いたら 舌《べろ》出した
傘《からかさ》かづいで 舌出した
嘘なら 蚯蚓《みみず》に
聞いて見ろ

こんやは 蚯蚓の行列だ
狸も跣足《はだし》で 行列だ
嘘なら 地蔵さんに
聞いて見ろ

地蔵さん 太鼓を買つて来た
ドドンコ ドンドン叩いてる
狸も一緒に 叩いてる
嘘なら 黙つて口出すな。


 孟宗の竹籔

お寺の竹籔
孟宗《まうそう》の竹籔

お小僧が 掘つても
孟宗の竹籔

お弟子が 掘つても
孟宗の竹籔

掘つても 掘つても
孟宗の竹籔

お弟子が あきれて
鍬 投げた

お小僧も あきれて
鍬 投げた。

じんぐ じんぐ 掘つても
孟宗の竹籔

どこまで掘つても
孟宗の竹籔

よくよく これはと
鍬 投げた。

そろそろ 踏んでも
孟宗の竹籔

ヤンヤと 踏んでも
孟宗の竹籔

踏んでも打《のし》ても
孟宗の竹籔

和尚さん 駄目だと
鍬 投げた。


 手毬唄

お手|毬《まり》ついて
毬ついて
二人で仲よく
遊びませう

あなたも 草履《ぞんぞ》を
はいといで
わたしも 草履を
はいて来よう

あなたの 髪《かんか》は
お煙草盆
わたしの 髪も
お煙草盆

お手毬ついて
毬ついて
二人で仲よく
遊びませう

明日《あした》も 明日も
遊びませう
仲よく 仲よく
遊びませう。


 河童の祭

今夜は 河童の
お祭だ

獺《かはうそ》ア 車に
乗つて来らア

泣く子は 河童に
獲《と》られるぞ

お祭ア 太鼓で
押して来た

泣く子に 当薬《たうやく》
なめらせろ。


 山の日

寒い日が
続いた

ぽかり ぽかり
日が照れ

日南《ひなた》ぽつこ
暖《ぬく》いな

山から海から
日が照れ。


 猫の髯

隣の父《とつ》さん
小豆 一升
煮てた

牡丹餅《ぼたもち》甘《うま》いな
てつこ盛つて
食べた

三毛猫ア馬鹿だぞ
髯に
火がはねた


 子

田甫の田螺《たにし》
早く
早く
起きろ

子供の雁《がん》は
ぱつた
ぱつた
翼《はね》だ

遠い遠い国へ
飛び
飛び
往つた。


 七つの子

烏 なぜ啼くの
烏は山に
可愛七つの
子があるからよ

可愛 可愛と
烏は啼くの
可愛 可愛と
啼くんだよ

山の古巣に
行つて見て御覧
丸い眼をした
いい子だよ。


 河原千鳥

こんこん 狐に
まはされた

娘は 昨夕《ゆんべ》も
帰らない

今夜も 河原で
啼け 千鳥

晩方《ばんげ》のお日さま
ゆつさゆつさ

小笹に ゆられて
ゆつさゆつさ。


 ホーホー鳥

鶉《うづら》の鳥が
田甫で 啼いた

田甫の土を
踏み踏み 啼いた

ホーホー鳥も
お山で 啼いた

お山の森に
隠れて 啼いた

もう日が暮れる
お家《うち》へ帰ろ。


 雪降り小女郎

泣く子は
帰れ
雀と帰れ

一軒家の
背戸に
雪五合降つて来た

山の 山の
奥の
雪降り小女郎

一里も 二里も
雪|負《しよ》つて
飛んで来た。


 木小屋と柿の木

太郎作家《たろさくげえ》の鼬の子 『このごろ魂消《たまげ》た 出来事だ
太郎作どんには
内証《ないしよう》だぞ

次郎作《じろさく》どん家の
姉さまは
太郎作どん家の 柿の木さ
朝晩 かかつて
ゐたんだぞ

次郎作家の鼬の子 『己《おい》らも魂消た 出来事だ
次郎作どんには
内証だぞ

太郎作どん家の
鶏雛《ぴよつぴよこ》と
次郎作どん家の 鶏雛と
木小屋さ あがつて
ゐたんだぞ。


 だまされ太郎作

鼻黒鼬
『太郎作《たろさく》どんてば 太郎作どん
留守番すべから 往つてごぜえ

だまされ太郎作
『たしかに 留守番
たのんだぞ

太郎作|家《げえ》の鶏の子
『鼬奴 来たらば
なじよにしべえ

鶏の親父
『厩《うまや》の前《めい》ちよで
遊んでろ

鼻黒鼬
『うまいぞ 雛鶏《ぴよつぴよこ》 追つかけべえ
太郎作ア来たても話すなヨ

鼻黒鼬の子供
『親父《とつ》さん 己《おい》らも
追つかけらア

柿の木の上の雀
『己らは なんにも
知んねえぞ

厩の馬
『己らも なんにも
知んねえぞ

背戸籔のみそさざい
『雛鶏ア追はれて逃げたつけ
尻餅つきつき逃げたつけ

井戸端の釣瓶
『太郎作どんてば戻らつせえ
この事 見たらば腰ア抜けべ。



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 郷土の人と土とに親みの多い二三の方言が、本書童謡中にとりいれてあります。たとへば、「背戸」(第一頁其他)とは家の裏のことです。「てつこ盛つた」(一四五頁)とは、山盛りに盛つたと云ふ意味です。又「雪降り小女郎」(一五五頁)とは、東京で云ふおほわたこわた[#「おほわたこわた」に傍点](背に白き粉のある小虫の名)のことです。晩秋の曇った日などに多く、群つて飛びます。私達の地方(茨城県の北隅)ではこの虫が飛ぶと、軈て初雪の降るしらせだと云つてをります。
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底本:「定本 野口雨情 第三巻」未来社
   1986(昭和61)年3月25日初版第1刷
   1996(平成8)年5月31日初版第2刷
底本の親本:「十五夜お月さん」尚文堂
   1921(大正10)年6月5日発行
※本作品中には、身体的・精神的資質、職業、地域、階層、民族などに関する不適切な表現が見られます。しかし、作品の時代背景と価値、加えて、作者の抱えた限界を読者自身が認識することの意義を考慮し、底本のままとしました。(青空文庫)
入力:大野晋
校正:林 幸雄
2002年5月8日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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