年の夏は東京に
今年の今は葛飾に
わかれねばならぬ時が来た

この住み馴れた
葛飾の
菖蒲の花よ
又逢はう


[#1字下げ]恋のかけ橋[#「恋のかけ橋」は中見出し]

恋のかけ橋
渡れと
   かけた

渡るつもりで
今日まで
    ゐたが

竹の一本橋
   渡らりよか


[#1字下げ]葱[#「葱」は中見出し]

葱と楮《かうぞ》と
故郷と思ふ

故郷出るとき
畑の葱よ

葱も楮も
風に吹かれてた


[#1字下げ]唄[#「唄」は中見出し]

唄が聞える
渡り鳥が渡る

細い さびしい
機織唄よ

けふも渡り鳥が
空を飛んで渡る


[#1字下げ]矢車草[#「矢車草」は中見出し]

矢車草の葉の蔭に
かくれて
鳴いた
きりぎりす

姉上さまには
だまされた
母上さまにも
だまされた

かくれて 鳴いても
矢車の
車といふ名に
だまされた


[#1字下げ]岡の上[#「岡の上」は中見出し]

霞の中に
黄金色《かねいろ》の
菜種の花は咲きにしが

葦の芽に降る
春雨の
そそぐ響きも聞きにしが

麦の葉に吹く
暁の
風も静に吹きにしが

靄の中から
しとしとと
草に甘露の霧が降る

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