磨《と》いでも磨いでも 庖丁の
錆は磨いても
さうか知ら


[#1字下げ]帰らぬ人[#「帰らぬ人」は中見出し]

川の向ふで
水鶏が 啼いた

帰りやんせ
帰りやんせ

月も おぼろに
河原さ出てる

きつと忘れて
ゐるんだよ


[#1字下げ]片恋[#「片恋」は中見出し]

恋しくて
裏へ出て見りや
青い空

はかない
わたしの
片恋よ

はかない
わたしに
何故《なぜ》したの

荒海のやうな
こころに
何故したの


[#1字下げ]蚯蚓の唄[#「蚯蚓の唄」は中見出し]

「わたしも一緒に連れてつてお呉れ」とおみつは
一緒にゆく気になつてゐる

夜は
しんしんと更《ふ》けていつた

「わたしや もう 着物も帯もいらない」と男の胸に
顔をあててしくしく泣いてゐる

厩の背戸で かなしさうに
蚯蚓《みみづ》は唄を うたつてゐた


[#1字下げ]畑の土[#「畑の土」は中見出し]

おつた 聟さま
つまらなささうに
背戸の畑で 種蒔きしてる

可愛女があるではないし
おつた一人を
たよりにしてた

なんのつもりだ 畑の土は
今日も燥《はしや》いで
ぽさりとしてる


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