ラララ ランララ ランランラン


[#1字下げ]金網ぐらし[#「金網ぐらし」は大見出し]

尾張名古屋の
    鯱鉾《しやちほこ》さんは
高い櫓《やぐら》で
    金網ぐらし
津島女も
    鯱鉾さんも
同じ名古屋の
    風ざらし


[#1字下げ]いととの虫[#「いととの虫」は大見出し]

青い月夜だ
    いととの虫よ

河原蓬《かはらよもぎ》は
    末《うち》から枯れる

青い月夜も
    いつまで続く

鳴いてくれるな
いととの虫よ


[#1字下げ]つばくらめ[#「つばくらめ」は大見出し]

浜町へ 来て幾年になるだらう
物干台の
つばくらめ
お前も旅の鳥だわネ

昨日《きのふ》までなにも云はずにゐたけれど
わたしも旅の
鳥なのヨ

もう わたしや遠いところへ
ゆくんだよ
物干台の
つばくらめ

今日はわかれだ
泣かないか


[#1字下げ]播磨夕凪[#「播磨夕凪」は大見出し]

播磨夕凪
皆恋ごころ
そそる そそられる
そそられる
そそる


[#1字下げ]ジプシーの歌[#「ジプシーの歌」は大見出し]

可愛女も
    今日《けふ》きりやめよう
夜は酒場で
    コツプ酒飲んで
酔ふて唄でも
    うたふて暮らそ

国をはなれた
    ジプシーの鳥は
旅のさきから
    さきへと渡る
どうせわたしも
    ジプシーの鳥さ

金のあるうちや
    コツプ酒飲んで
昼も酒場で
    コツプ酒飲んで
酔ふて歌でも
    うたふて暮らそ


[#1字下げ]松葉牡丹[#「松葉牡丹」は大見出し]

物干台に
    咲く花は
松葉牡丹で
    ありやんした

わたしはほんとに
    はづかしい
お暇《いとま》もろうて
    帰りやんす


[#1字下げ]芒の蔭[#「芒の蔭」は大見出し]

迷ひ子は待つても
帰らない

田甫の 遠くで
啼く狐

迷ひ子はゆふべも
帰らない

塩たく渚で
啼く狐

迷ひ子は 迷ひ子は
帰らない

芒《すすき》の蔭から
啼く狐


[#1字下げ]黒髪[#「黒髪」は大見出し]

親も捨てませう
   捨てろとならば

髪も切りませう
   この黒髪も

いつそせつない
   わたしの胸を

刺して殺して
   お呉れよ 君よ


[#1字下げ]五年すぎたら[#「五年すぎたら」は大見出し]

五年すぎたら
    お嫁さんに貰ほ
待つてゐておくれ
    待つてゐておくれ

十九 二十一
    二十三四まで
待つてゐられようか
    待つてゐられようか

つまらないから
    大正琴弾いて
ロストラブでも
    うんとさとうたほ


[#1字下げ]すさみ心[#「すさみ心」は大見出し]

バーで飲もうか
    カフエーへゆこか

バーの女に
    酌《しやく》させませうか

酌の振りみて
    だましてみせうか

うまくだまして
    勘定借りませうか

勘定借りたら
    勘定踏みませうか

どうせ踏む気で
    うんと飲みませうか


[#1字下げ]月の出[#「月の出」は大見出し]

[#2字下げ]一[#「一」は中見出し]

赤い夕日の
    硝子《がらす》の窓で
君としよんぼり
    涙にくれた

わたしや初恋
    捨てられましヨか
ジヨンニー・ハートは
    わたしの夫

君は恋風
    忍んで来てた
わたしやロツスで
    生れた娘

聞いて下さい
    スコツチ服の
ジヨンニー・ハートは
    捨てられましヨか

[#ここから4字下げ]
(ジヨンニ・ハートの唄)
[#ここで字下げ終わり]

[#2字下げ]二[#「二」は中見出し]

若い娘は
    花より紅《あか》い
しぼみしぼまぬ
    花より紅い

ほんにやさしい
    あの唄声は
グラニエールの
    いとしい唄よ

夢にうつつに
    月日はすぎて
今ははづかし
    荒野《あれの》のすがた

[#ここから4字下げ]
(グラニエールの唄)
[#ここで字下げ終わり]

[#2字下げ]三[#「三」は中見出し]

広い世界は
    いつ夜が明ける
星は流れて
    はてなし国へ

最早《もはや》間もない
    夜明けの風は
途切れ途切れて
    波止場に吹いた

今宵逢ひませう
    河原の岸で
水のよどんだ
    河原の岸で

吹いておくれよ
    合図の口笛《ふえ》を
月の出しほの
    夜明けの前に

[#ここから4字下げ]
(月の出の唄)
[#ここで字下げ終わり]


[#1字下げ]青い花[#「青い花」は大見出し]

港の 岸の
    青い花
恋にやつれた
    青い花

わたしや男に
    捨てられた
可愛男に
    捨てられた

港の 岸の
    青い花
恋にやつれた
    青い花

可愛男に
    捨てられた
わたしや港の
    青い花


[#1字下げ]お七[#「お七」は大見出し]

本郷駒込の
    寺の屋根をみてると
八百屋お七が
    しのばれて来る しのばれて来る

八百屋お七は
    胸の火で焼いた
思や しをらし
    娘だつた 娘だつた

さびれはてても
    鈴ヶ森の藪で
今も チンチロリンと
    虫が鳴く 虫が鳴く


[#1字下げ]おしやれ燕[#「おしやれ燕」は大見出し]

おしやれ燕よ
    どこへゆくの
若い女を
    見にゆくの

おしやれ燕は
    女が好きね
オホホ
    オホホ

わたしお嫁に
    いつてあげようか
晩にお母《つか》さんに
    聞いておくわ


[#1字下げ]工場帰り[#「工場帰り」は大見出し]

工場帰りの
    職長さんは
財布たたいて
    燗酒《かんさけ》飲んだ

酒の熱さは
    腹までしみる
財布拝んで
    一人で飲んだ

カランコロンと
    酒場の店は
下駄の歯にまで
    寒さが響く

財布拝んで
    燗酒飲んで
空の財布が
    有難かろか


[#1字下げ]黒のソフトさん[#「黒のソフトさん」は大見出し]

わたしやカフエーの
    はかないをんな
お酒酔ふた酔ふた
    ゆるしておくれ

黒のソフトさん
    明日《あす》の晩こそは
嬉し約束
    結びませうね

嬉し約束
    明日の晩こそは
黒のソフトさん
    そつと来ておくれ


[#1字下げ]砧[#「砧」は大見出し]

トンコトンコトンコ
打つ砧《きぬた》
   姉と妹で 打つ砧

月は半分 出てたつけ
森の天上さ
   出てたつけ

姉は男に泣かされて
妹も
   男に泣かされた

トンコトンコトンコ
打つ砧
   月は半分 出てたつけ


[#1字下げ]ちよいと出たお月[#「ちよいと出たお月」は大見出し]

布野《ふの》の渡しに
   ちよいと出たお月
誰《たれ》を待つのか
   待たれるか

  カツタカタ カツタカタ
  オヤ カツタカタ

誰も待たない
   待たれもしない
可愛お前に
   逢ひたさに

  オヤ カツタカタ

可愛お前は
  須坂の町に
須坂恋しい
    ちよいと出たお月

  カツタカタ カツタカタ
  オヤ カツタカタ

[#ここから4字下げ]
(ちよいと出たお月は長野県須坂町山丸組製糸会社のために作りし女工歌である)
[#ここで字下げ終わり]

[#1字下げ]伊那小唄[#「伊那小唄」は大見出し]

  □

木曾と伊那とは
    背中と背中
背中合せの
    風ばかり

  □

淵は瀬となる
    天龍川の
堰《せ》かれ水とは
    わしがこと


[#1字下げ]小諸小唄[#「小諸小唄」は大見出し]

  □

上州見おろし
    浅間が山は
胸にほのほの
    火を燃やす

  □

恋の小諸へ
    小諸の町へ
吹くな浅間の
    山颪《やまおろし》


[#1字下げ]お三大星さま[#「お三大星さま」は大見出し]
[#ここから4字下げ]
(焦土の帝都をさまよふ若き女の唄)
[#ここで字下げ終わり]

お三大星《さんだいしやう》さま
   またしやんせ

わたしや夜ふけに
   ひとりぽつち

待てと云《ゆ》ふたら
   待たしやんせ

可哀想《かはいさう》なら
   泣きやしやんせ

身につまされたて
   愚痴ぢやない

連れて行くなら
   行きやしやんせ

お三大星さま
   連れ衆連れ

わたしや焼野に
   ひとりぽつち

[#ここから4字下げ]
(お三大星さまは俗に三ツ星とも云ひ夜明けごろ西空に落ちゆく星である)
[#ここで字下げ終わり]


[#1字下げ]千ヶ滝小唄[#「千ヶ滝小唄」は大見出し]

二つ日はない
    浅間が山よ
わしが願ひを
    どうなさる

[#ここから4字下げ]
(千ヶ滝は浅間山麓の避暑地である)
[#ここで字下げ終わり]


[#1字下げ]三井田川[#「三井田川」は大見出し]

三井田川の
    竪坑《たてこう》の風は
恋の風やら
    わしや恋し

[#ここから4字下げ]
(三井田川は福岡県の炭坑地である)
[#ここで字下げ終わり]


[#1字下げ]千代の松原[#「千代の松原」は大見出し]

千代の松原
ひよろひよろ松よ

こぼれ松葉の
わたしぢやほどに

逢ひに来たのか
泣かせに来たか

逢ひに来たなら
出て逢ひませうに

泣けと云ふなら
わしや泣きませうに

唄で流して
横丁を通る

[#ここから4字下げ]
(千代の松原は福岡県博多の名所である)
[#ここで字下げ終わり]


[#1字下げ]運動踊り[#「運動踊り」は大見出し]

[#2字下げ]春[#「春」は中見出し]

春の花かよ
    桜の花は
春の花だよ
    あの花は
 チヤチヤラチヤ ヤツトサ

[#2字下げ]夏[#「夏」は中見出し]

夏の空かよ
    夕立雲は
夏の空だよ
    あの雲は
 チヤチヤラチヤ ヤツトサ

[#2字下げ]秋[#「秋」は中見出し]

秋の月かよ
    尾花の上に
秋の月だよ
    あの月は

 チヤチヤラチヤ ヤツトサ

[#2字下げ]冬[#「冬」は中見出し]

冬の風かよ
    山吹く風は
冬の風だよ
    あの風は
 チヤチヤラチヤ ヤツトサ

[#ここから4字下げ]
(運動踊りは盆踊りに代る新しき踊りのために作りし踊歌である)
[#ここで字下げ終わり]


[#1字下げ]乙鳥の鳥[#「乙鳥の鳥」は大見出し]

渡り鳥かよ
乙鳥《つばめ》の
鳥は
渡り鳥だよ
あの鳥は


[#1字下げ]また来よつばめ[#「また来よつばめ」は大見出し]

月日立つのは
  つばめの鳥よ
はやいものだと
    さう思へ

南風吹きや
  また来よつばめ
桜咲いたら
    来よつばめ

南風吹きや
  つばめの鳥よ
わしが待つぞと
    さう思へ


[#1字下げ]雲間[#「雲間」は大見出し]

歌は桃色
    薄桃色よ
人の心も
    皆いつはりか

人の心と
    雲間の 月はよ
月は雲間の
    蔭渡る


[#1字下げ]浪枕[#「浪枕」は大見出し]

昨夜《ゆふべ》も君から
来たたより

博多小女郎は
浪枕《なみまくら》

わたしも博多の
浪枕

ゆるしてお呉れと
ゆふたより


[#1字下げ]佐渡が島[#「佐渡が島」は大見出し]

海に海鳥
  鴎鳥《かもめどり》

海の遠くは
  どこの国

あれは越後の
  佐渡が島

波々打つな
  波打つな

佐渡は越後の
  はなれ島


[#1字下げ]蛇の心[#「蛇の心」は大見出し]

蛇の心に
  なつたのも
あなたがわたしを
    捨てたから

恋といふ芽の
  もえたのも
末たのもしく
    思ふから

捨てらば捨てろ
  このうへは
蛇のこころで
    死なば死のう


[#1字下げ]出船[#「出船」は
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