五年すぎたら
    お嫁さんに貰ほ
待つてゐておくれ
    待つてゐておくれ

十九 二十一
    二十三四まで
待つてゐられようか
    待つてゐられようか

つまらないから
    大正琴弾いて
ロストラブでも
    うんとさとうたほ


[#1字下げ]すさみ心[#「すさみ心」は大見出し]

バーで飲もうか
    カフエーへゆこか

バーの女に
    酌《しやく》させませうか

酌の振りみて
    だましてみせうか

うまくだまして
    勘定借りませうか

勘定借りたら
    勘定踏みませうか

どうせ踏む気で
    うんと飲みませうか


[#1字下げ]月の出[#「月の出」は大見出し]

[#2字下げ]一[#「一」は中見出し]

赤い夕日の
    硝子《がらす》の窓で
君としよんぼり
    涙にくれた

わたしや初恋
    捨てられましヨか
ジヨンニー・ハートは
    わたしの夫

君は恋風
    忍んで来てた
わたしやロツスで
    生れた娘

聞いて下さい
    スコツチ服の
ジヨンニー・ハートは
    捨てられましヨか

[#ここから4字下げ]
(ジヨンニ・ハートの唄)
[#ここで字下げ終わり]

[#2字下げ]二[#「二」は中見出し]

若い娘は
    花より紅《あか》い
しぼみしぼまぬ
    花より紅い

ほんにやさしい
    あの唄声は
グラニエールの
    いとしい唄よ

夢にうつつに
    月日はすぎて
今ははづかし
    荒野《あれの》のすがた

[#ここから4字下げ]
(グラニエールの唄)
[#ここで字下げ終わり]

[#2字下げ]三[#「三」は中見出し]

広い世界は
    いつ夜が明ける
星は流れて
    はてなし国へ

最早《もはや》間もない
    夜明けの風は
途切れ途切れて
    波止場に吹いた

今宵逢ひませう
    河原の岸で
水のよどんだ
    河原の岸で

吹いておくれよ
    合図の口笛《ふえ》を
月の出しほの
    夜明けの前に

[#ここから4字下げ]
(月の出の唄)
[#ここで字下げ終わり]


[#1字下げ]青い花[#「青い花」は大見出し]

港の 岸の
    青い花
恋にやつれた
    青い花

わたしや男に
    捨てられた
可愛男に
    捨てられた

港の 岸の
    青い花
恋にやつれた
    青い花

可愛男に
    捨てられた
わたしや港の
    青い花


[#1字下げ]お七[#「お七」は大見出し]

本郷駒込の
    寺の屋根をみてると
八百屋お七が
    しのばれて来る しのばれて来る

八百屋お七は
    胸の火で焼いた
思や しをらし
    娘だつた 娘だつた

さびれはてても
    鈴ヶ森の藪で
今も チンチロリンと
    虫が鳴く 虫が鳴く


[#1字下げ]おしやれ燕[#「おしやれ燕」は大見出し]

おしやれ燕よ
    どこへゆくの
若い女を
    見にゆくの

おしやれ燕は
    女が好きね
オホホ
    オホホ

わたしお嫁に
    いつてあげようか
晩にお母《つか》さんに
    聞いておくわ


[#1字下げ]工場帰り[#「工場帰り」は大見出し]

工場帰りの
    職長さんは
財布たたいて
    燗酒《かんさけ》飲んだ

酒の熱さは
    腹までしみる
財布拝んで
    一人で飲んだ

カランコロンと
    酒場の店は
下駄の歯にまで
    寒さが響く

財布拝んで
    燗酒飲んで
空の財布が
    有難かろか


[#1字下げ]黒のソフトさん[#「黒のソフトさん」は大見出し]

わたしやカフエーの
    はかないをんな
お酒酔ふた酔ふた
    ゆるしておくれ

黒のソフトさん
    明日《あす》の晩こそは
嬉し約束
    結びませうね

嬉し約束
    明日の晩こそは
黒のソフトさん
    そつと来ておくれ


[#1字下げ]砧[#「砧」は大見出し]

トンコトンコトンコ
打つ砧《きぬた》
   姉と妹で 打つ砧

月は半分 出てたつけ
森の天上さ
   出てたつけ

姉は男に泣かされて
妹も
   男に泣かされた

トンコトンコトンコ
打つ砧
   月は半分 出てたつけ


[#1字下げ]ちよいと出たお月[#「ちよいと出たお月」は大見出し]

布野《ふの》の渡しに
   ちよいと出たお月
誰《たれ》を待つのか
   待たれるか

  カツタカタ カツタカタ
  オヤ カツタカタ

誰も待たない
   待たれもしない
可愛お前に
   逢ひたさに

  オヤ カツタカタ

可愛お前は
  須坂の町
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