[#1字下げ]浪枕[#「浪枕」は大見出し]
昨夜《ゆふべ》も君から
来たたより
博多|小女郎《こぢよらう》は
浪枕
わたしも博多の
浪枕
ゆるしてお呉れと
いふたより
[#1字下げ]川しぶき[#「川しぶき」は大見出し]
さつさ行《ゆ》きましよ
あの山越えて
花は咲けども
ふるさとの
月はおぼろに
川しぶき
さつさ行きましよ
あの川越えて
花は散れども
ふるさとの
月はなつかし
川しぶき
[#1字下げ]芙蓉の花[#「芙蓉の花」は大見出し]
芙蓉《ふよう》の花の
咲く頃にや
芙蓉の紅い
花が咲く
雀もお宿に
帰る頃にや
雀のお宿も
日が暮れる
おれもかうして
ゐるうちにや
おれも日暮れて
しまふだらう
[#1字下げ]いとどの虫[#「いとどの虫」は大見出し]
青い月夜だ
いとどの虫よ
河原蓬《かはらよもぎ》は
末《うら》から枯れる
青い月夜も
いつまで続く
鳴いてくれるな
いとどの虫よ
[#1字下げ]千羽烏[#「千羽烏」は大見出し]
生れ故郷の
父母《ととかか》さまよ
今日《けふ》もわたしは
糸とりながら
父と云ひました
母と云ひました
千羽烏の
カホカホ声よ
父が恋しい
母なつかしい
[#1字下げ]薔薇の花さへ[#「薔薇の花さへ」は大見出し]
[#2字下げ]一[#「一」は中見出し]
薔薇の花さへ
真赤に咲くに
二度と帰らぬ
わかれた恋よ
夢か 涙か
流れの水か
わたしや口惜《くやし》い
捨てたか恋よ
[#2字下げ]二[#「二」は中見出し]
薔薇の花さへ
真赤に咲くに
帰つて下さい
わかれた恋よ
夢も 涙も
流れの水も
わたしや口惜い
帰らぬ恋よ
[#2字下げ]三
薔薇の花さへ
真赤に咲くに
忘れられない
せつない恋よ
夢と 涙と
浮世の風に
わたしや口惜い
しぼんだ恋よ
[#1字下げ]わたしや黒猫[#「わたしや黒猫」は大見出し]
[#2字下げ]一[#「一」は中見出し]
わたしや黒猫
闇夜がすきよ
寒いロシヤへ
渡ろか 行《ゆ》こか
行こかロシヤの
雪降る国へ
身まで売られた
わしや黒猫よ
[#2字下げ]二[#「二」は中見出し]
風は 吹く吹く
港の沖に
寒いロシヤの
国吹く風よ
行こよ明日《あした》は
ロシヤの国へ
どうせ売られた
わしや黒猫よ
[#2字下げ]三[#「三」は中見出し]
鳥は空飛ぶ
空飛ぶ鳥よ
つれて行かぬか
ロシヤの国へ
ロシヤは恋しい
火を吐く国か
たよりすくない
わしや黒猫よ
[#1字下げ]同じ国なら[#「同じ国なら」は大見出し]
同じ国なら
故郷の人か
聞いただけでも
なつかしう思ふ
今の 今まで
忘れてゐたが
村の娘で
わしやゐた頃よ
思ひ出したぞ
涙の種を
[#1字下げ]暴風の夜[#「暴風の夜」は大見出し]
飲めよ コクテール
うたへよ 未来の歌を
赤く爛れた
二人のこころ
弾こか バラライカ
ロシヤの歌を
空は闇夜で
星さへ見えず
窓を ノツクする
暴風《あらし》よ 雨よ
明日《あす》の夜明が
またれてならぬ
[#1字下げ]但馬山国[#「但馬山国」は大見出し]
但馬《たじま》山国《やまぐに》
三日月さまも
山の蔭から
蔭へとはいる
山の蔭かよ
三日月さまは
但馬山国
恋の星月夜
[#1字下げ]春降る雪[#「春降る雪」は大見出し]
何《な》にが 不思議だ
春降る雪は ヨー
山の峰さへ
一夜《いちや》で解ける
わしの扱帯《しごき》も
春降る雪か ヨー
伊那《いな》に来た夜に
不思議に解けた
[#1字下げ]伊那の龍丘[#「伊那の龍丘」は大見出し]
伊那《いな》の龍丘《たつをか》
桃の花盛り
春蠶《はるこ》掃きませうか
籠ロヂ乾そか
春蠶|毛子《けご》になつた
日和はよいし
簇《まぶし》たたいて
桑摘み唄よ
[#1字下げ]霧ヶ岳から[#「霧ヶ岳から」は大見出し]
霧ヶ岳から
朝立つ霧よ
霧を見てさへ
父母《ちちはは》さまを
思ひ出されて
どうもならぬ
故郷恋しい
あの山蔭の
霧は消えても
父母さまを
思ひ出されて
どうもならぬ
[#1字下げ]かなしい海[#「かなしい海」は大見出し]
ざんぶざんぶと
越後の海は
恋の海かよ
海鵯《うみひよどり》よ
はなればなれに
波々打つな
同じ海でも
越後の海は
ざんぶざんぶと
かなしい海か
はなればなれに
波々打つな
[#1字下げ]茄子畑[#「茄子畑」は大見出し]
茄子《なすび》ヤうれたかと
畑を覗きや
茄子ヤうれずに
まだ花盛り
ひよいと茄子の
木の下見たりや
蟻の行列ア
続いてる
[#1字下げ]運動踊り(四季の歌)[#「運動踊り(四季の歌)」は大見出し]
[#2字下げ]春[#「春」は中見出し]
春の花かよ
桜の花は
春の花だよ
あの花は
チヤチヤラチヤ ヤツトサ
[#2字下げ]夏[#「夏」は中見出し]
夏の空かよ
夕立雲は
夏の空だよ
あの雲は
チヤチヤラチヤ ヤツトサ
[#2字下げ]秋[#「秋」は中見出し]
秋の月かよ
尾花の上に
秋の月だよ
あの月は
チヤチヤラチヤ ヤツトサ
[#2字下げ]冬[#「冬」は中見出し]
冬の風かよ
山吹く風は
冬の風だよ
あの風は
チヤチヤラチヤ ヤツトサ
[#1字下げ]宮城野小唄[#「宮城野小唄」は大見出し]
□
さんさ時雨《しぐれ》は
夜来ちや
降りやる
萱《かや》の枯れ穂に来ちや
降りやる
□
塩の塩釜《しほがま》
石の釜
欲しや
鉄の錆釜ぢや
塩アたけぬ
[#1字下げ]つばくらめ[#「つばくらめ」は大見出し]
浜町《はまちやう》へ 来て幾年になるだらう
物干台の
つばくらめ
お前も旅の鳥だわネ
昨日《きのふ》までなにも云はずにゐたけれど
わたしも旅の
鳥なのヨ
もうわたしや遠いところへ
ゆくんだよ
物干台の
つばくらめ
今日《けふ》はわかれだ
泣かないか
[#1字下げ]お艶[#「お艶」は大見出し]
お艶《つや》が風呂にはいつてゐると
若い男が
だましに来た
小さい声でだましてゐる
お艶がざぶり湯をかけてやると
男はうろうろしてゐたが
裏から
すーつと逃げて行つた
馬は厩《うまや》で
馬堰棒《ませんぼ》を
がらんがらんと鳴らしてゐる
天の川は北から西へ流れてゐた
[#1字下げ]旅の鳥[#「旅の鳥」は大見出し]
山に春雨
野に茅花《つばな》
花のかげかは
つばくらめ
去年|常陸《ひたち》の
ふるさとの
山に来もした
つばくらめ
雨は降れども
つばくらは
花に寝もせぬ
旅の鳥
野にも山にも
春の日の
雨は糸より
細く降る
[#1字下げ]篠藪[#「篠藪」は大見出し]
蝸牛《ででむし》よ
黙り腐つた
蝸牛よ
渦を巻いてる蝸牛よ
何が恋しい
篠藪に
さらさら さらと 雨が降る
夢現《ゆめうつつ》に
己《おれ》は暮した
蝸牛よ
己に悲しいコスモスの
花と花とに雨が降る
もう己の
家は最終《をはり》だ
蝸牛よ
田もいらぬ
畑もいらぬ
篠藪に
さらさら さらと 雨が降る
[#1字下げ]萱の花[#「萱の花」は大見出し]
誰に見せうとて
髪結ふた
西の山には
萱《かや》の花
誰に解かそと
帯締めた
東の山にも
萱の花
萱の枯れ葉に
だまされた
お綱さまはと
懸巣啼く
[#1字下げ]みそさざい[#「みそさざい」は大見出し]
わたしの姉《ねえ》さん
篠藪で
さつさ お背戸の
鷦鷯《みそさざい》
誰にも言はずに
ゐてお呉れ
去年の暮にも
篠藪で
さつさ お背戸の
鷦鷯
誰にも言はずに
ゐてお呉れ
[#1字下げ]風に吹かれて[#「風に吹かれて」は大見出し]
風に吹かれて
そよそよと
山の枯葉は
皆落ちた
木曾に木榧《きがや》の
実はうれる
かへれ信濃の
旅烏
茶の樹畑の
豆食べた
鳩は畑の
どこで啼く
[#1字下げ]荒野[#「荒野」は大見出し]
花と云ふ花は咲けども
妻と云ふ
花は咲かない
おお 淋し
荒野《あれの》の果てに
咲く花は
妻と云はりヨか
おお 淋し
風に吹かれて飛ぶ雲は
荒野の 果ての 野の 果ての
わたしに 何《な》んで
恋しかろ
[#1字下げ]子安貝[#「子安貝」は大見出し]
渚の 渚の
子安貝
波 どんど
波 どんど
子安貝
今日《けふ》から ふたりで
暮しませう
お前も
わたしも
子安貝
[#1字下げ]一軒家[#「一軒家」は大見出し]
姉は 男に
だまされた
野中《のなか》の一軒家の
きりぎりす
機場《はたば》に売られた
妹は
とんがらがん とんがらがん
暮してる
姉は 男に
だまされた
野中の一軒家の
きりぎりす
青い芒《すすき》に
降る雨は
ちんちりりん ちんちりりん
降りました
[#1字下げ]白露虫[#「白露虫」は大見出し]
かげろふの
あしたはまたぬ命だと
たよりは来たが
どうしよう
ひとつにはまたひとつには
かすかに白き
花でせう
しよんぼりとまたひとつには
さびしく咲いた
花でせう
かなしくもまたふたつには
涙に咲いた
花でせう
かげろふの
糸より細き命だと
たよりは来たが
どうしよう
[#1字下げ]雁[#「雁」は大見出し]
今朝《けさ》も 南へ
下総《しもふさ》の
雁《かり》が啼き啼きたちました
さらば さらばと
下総の
風の吹くのにたちました
親と別れた
故郷《ふるさと》の
空を見てゐた雁でせう
旅の身ゆゑに
下総の
風の吹くのにたちました
[#1字下げ]濡れ乙鳥[#「濡れ乙鳥」は大見出し]
逢ひはせぬかよ
十六島で
潮来《いたこ》出島の
ぬれ乙鳥《つばくら》に
潮来出島の
ぬれ乙鳥は
いつも春来て
秋帰る
[#1字下げ]空飛ぶ鳥[#「空飛ぶ鳥」は大見出し]
赤いはお寺の
百日紅《ひやくじつこう》
白いは畑の
蕎麦《そば》の花
空飛ぶ鳥ゆゑ
巣が恋し
別れた子ゆゑに
子が恋し
木瓜《ぼけ》の花咲く
ふるさとの
国へ帰れば
皆恋し
[#1字下げ]枯れ山唄[#「枯れ山唄」は大見出し]
潮来《いたこ》出島の
五月雨《さみだれ》は
いつの夜の間に
降るのだろ
枯れて呉れろと
枯れ山の
風は幾日
吹いただろ
常陸《ひたち》鹿島の
神山《かみやま》に
己《おれ》が涙の
雨が降れ
[#1字下げ]土蔵の壁[#「土蔵の壁」は大見出し]
わたしの胸の
恋の火は
いつになつたら
消えるだろ
竈《かまど》の土は
樺色《かばいろ》の
焔に燃えてをりました
君はたしかに
夕暮の
野に咲く花の
露でした
土蔵の壁に
相合《あひあひ》の
傘にかかれてありました
[#1字下げ]儚き日[#「儚き日」は大見出し]
君のたよりの
来た日から
かなしい噂がたちました
水に流して呉れろとは
夢と思への
謎か知ら
走り書きだが
仮名文字《かなもじ》で
「涙」と記してありました
水に流して呉れろとは
熱い涙の
ことか知ら
[#1字下げ]祇園町[#「祇園町」は大見出し]
友禅の 赤く燃えたつ
祇園町《ぎをんまち》
銀の糸の
雨は斜《ななめ》に降りしきる
渋色の 蛇の目の傘に
降る雨も
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