元の男の 畑に咲いた

お蔦嫁さま
もう 諦めた
何にも縁だと もう諦めた

切れた障子の
穴から見たら
後向きして糸繰りしてる


[#1字下げ]石地蔵[#「石地蔵」は大見出し]

学校先生よ
  石地蔵さまも
赤い涎掛《よだれかけ》
  かけてゐる

烏ア欲しくて
  涎掛見てる
学校先生よ
  何《な》じよにしぺ


[#1字下げ]櫛[#「櫛」は大見出し]

裏の川端の
さらさら蓬《よもぎ》

思ひ返して
みる気はないか

今朝《けさ》も 裏戸に
櫛が落ちてゐた

通つて来たのか
可哀想なものだ


[#1字下げ]葛飾の夏[#「葛飾の夏」は大見出し]

卯の花が散る
時鳥《ほととぎす》が啼く
沼の中に
菖蒲《あやめ》の花も咲いてゐる

沼の中の
菖蒲の花よ
葛飾に
今|二月《ふたつき》もゐたかつた

家も屋敷もない 己《おれ》は
去年の夏は東京に
今年の今は葛飾に
わかれねばならぬ時が来た

この住み馴れた
葛飾の
菖蒲の花よ
また逢はう


[#1字下げ]港の時雨[#「港の時雨」は大見出し]

蛇の目|傘《からかさ》に
時雨《しぐれ》が降るに

月日かぞへて
港を見てる

待つ
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