[#1字下げ]白露虫[#「白露虫」は大見出し]

かげろふの
あしたはまたぬ命だと
たよりは来たが
どうしよう

ひとつにはまたひとつには
かすかに白き
花でせう

しよんぼりとまたひとつには
さびしく咲いた
花でせう

かなしくもまたふたつには
涙に咲いた
花でせう

かげろふの
糸より細き命だと
たよりは来たが
どうしよう


[#1字下げ]雁[#「雁」は大見出し]

今朝《けさ》も 南へ
下総《しもふさ》の
雁《かり》が啼き啼きたちました

さらば さらばと
下総の
風の吹くのにたちました

親と別れた
故郷《ふるさと》の
空を見てゐた雁でせう

旅の身ゆゑに
下総の
風の吹くのにたちました


[#1字下げ]濡れ乙鳥[#「濡れ乙鳥」は大見出し]

逢ひはせぬかよ
十六島で
潮来《いたこ》出島の
ぬれ乙鳥《つばくら》に

潮来出島の
ぬれ乙鳥は
いつも春来て
秋帰る


[#1字下げ]空飛ぶ鳥[#「空飛ぶ鳥」は大見出し]

赤いはお寺の
百日紅《ひやくじつこう》
白いは畑の
蕎麦《そば》の花

空飛ぶ鳥ゆゑ
巣が恋し
別れた子ゆゑに
子が恋し

木瓜《ぼけ》の花咲く
ふるさ
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