に来てゐる
蚊喰鳥《かくひどり》

友なつかしい
今日の日も
桜の蔭に
暮れて行く

桜の蔭の
たそがれが
なぜなつかしい
蚊喰鳥


[#1字下げ]また来よつばめ[#「また来よつばめ」は大見出し]

月日立つのは
  つばめの鳥よ
はやいものだと
    さう思へ

南風吹きや
  また来よつばめ
桜咲いたら
    来よつばめ

南風吹きや
  つばめの鳥よ
わしが待つぞと
    さう思へ


[#1字下げ]千代の松原[#「千代の松原」は大見出し]

千代《ちよ》の松原
ひよろひよろ松よ

こぼれ松葉の
わたしぢやほどに

逢ひに来たのか
泣かせに来たか

逢ひに来たなら
出て逢ひませうに

泣けと云ふなら
わしや泣きませうに

唄で流して
横丁を通る


[#1字下げ]背戸山[#「背戸山」は大見出し]

狐ヤ背戸山さ
   来ちやコンと啼いた

背戸の松山の
   松|伐《き》つてしもと

狐ヤ背戸山さ
   来なくなつた


[#1字下げ]飛騨にて[#「飛騨にて」は大見出し]

山にや
毎日 寒い風吹くに
飛騨の高山
渡り鳥や
渡る

渡りなされよ
富山の 山にや
風は吹いても
まだ雪ヤ
降らぬ


[#1字下げ]米山小唄[#「米山小唄」は大見出し]

思ひつめたぞ
   米山《よねやま》さまよ

生きて暮らそと
   恋路で死のと

わしの心も
   こうなりや闇ぢや

どこで照る日も
   照る日は同じ

故郷《くに》も捨てたぞ
   この土地去るぞ


[#1字下げ]旅の身ぢやとて[#「旅の身ぢやとて」は大見出し]

旅の身ぢやとて
   さうぢやとて

明日《あす》はわかれて
   ゆく気かい

たづねて来よとて
   さうぢやとて

このままわかれて
   ゆく気かい

待つてて呉れとて
   さうぢやとて

どうでもわかれて
   ゆく気かい


[#1字下げ]小諸小唄[#「小諸小唄」は大見出し]

  □

上州見おろし
   浅間が山は
胸にほのほの
   火を燃やす

  □

二つ日はない
   浅間が山よ
わしが願ひを
   どうなさる


[#1字下げ]出船[#「出船」は大見出し]

沖は時雨《しぐれ》よ
   渚は雨よ

船は出船《でぶね》か
   みち汐か

汐はみち汐
   港の船よ

時雨|交《まじ》りの
   風が吹く


[#1字下げ]浪枕[#「浪枕」は大見出し]

昨夜《ゆふべ》も君から
来たたより

博多|小女郎《こぢよらう》は
浪枕

わたしも博多の
浪枕

ゆるしてお呉れと
いふたより


[#1字下げ]川しぶき[#「川しぶき」は大見出し]

さつさ行《ゆ》きましよ
   あの山越えて
花は咲けども
   ふるさとの
月はおぼろに
   川しぶき
さつさ行きましよ
   あの川越えて
花は散れども
   ふるさとの
月はなつかし
   川しぶき


[#1字下げ]芙蓉の花[#「芙蓉の花」は大見出し]

芙蓉《ふよう》の花の
   咲く頃にや

芙蓉の紅い
   花が咲く

雀もお宿に
   帰る頃にや

雀のお宿も
   日が暮れる

おれもかうして
   ゐるうちにや

おれも日暮れて
   しまふだらう


[#1字下げ]いとどの虫[#「いとどの虫」は大見出し]

青い月夜だ
   いとどの虫よ

河原蓬《かはらよもぎ》は
   末《うら》から枯れる

青い月夜も
   いつまで続く

鳴いてくれるな
   いとどの虫よ


[#1字下げ]千羽烏[#「千羽烏」は大見出し]

生れ故郷の
   父母《ととかか》さまよ

今日《けふ》もわたしは
   糸とりながら

父と云ひました
   母と云ひました

千羽烏の
   カホカホ声よ

父が恋しい
   母なつかしい


[#1字下げ]薔薇の花さへ[#「薔薇の花さへ」は大見出し]

[#2字下げ]一[#「一」は中見出し]

薔薇の花さへ
   真赤に咲くに
二度と帰らぬ
   わかれた恋よ

夢か 涙か
   流れの水か
わたしや口惜《くやし》い
   捨てたか恋よ

[#2字下げ]二[#「二」は中見出し]

薔薇の花さへ
   真赤に咲くに
帰つて下さい
   わかれた恋よ

夢も 涙も
   流れの水も
わたしや口惜い
   帰らぬ恋よ

[#2字下げ]三

薔薇の花さへ
   真赤に咲くに
忘れられない
   せつない恋よ

夢と 涙と
   浮世の風に
わたしや口惜い
   しぼんだ恋よ


[#1字下げ]わたしや黒猫[#「わたしや黒猫」は大見出し]

[#2字下げ]一[#「一」は中見出し]

わたしや黒猫
   闇夜がすきよ
寒いロシヤへ
   渡ろか 行《ゆ》こか

行こかロシヤの
   雪降る国へ
身まで売ら
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