れた
   わしや黒猫よ

[#2字下げ]二[#「二」は中見出し]

風は 吹く吹く
   港の沖に
寒いロシヤの
   国吹く風よ

行こよ明日《あした》は
   ロシヤの国へ
どうせ売られた
   わしや黒猫よ

[#2字下げ]三[#「三」は中見出し]

鳥は空飛ぶ
   空飛ぶ鳥よ
つれて行かぬか
   ロシヤの国へ

ロシヤは恋しい
   火を吐く国か
たよりすくない
   わしや黒猫よ


[#1字下げ]同じ国なら[#「同じ国なら」は大見出し]

同じ国なら
   故郷の人か

聞いただけでも
   なつかしう思ふ

今の 今まで
   忘れてゐたが

村の娘で
   わしやゐた頃よ

思ひ出したぞ
   涙の種を


[#1字下げ]暴風の夜[#「暴風の夜」は大見出し]

飲めよ コクテール
うたへよ 未来の歌を

赤く爛れた
二人のこころ

弾こか バラライカ
ロシヤの歌を

空は闇夜で
星さへ見えず

窓を ノツクする
暴風《あらし》よ 雨よ

明日《あす》の夜明が
またれてならぬ


[#1字下げ]但馬山国[#「但馬山国」は大見出し]

但馬《たじま》山国《やまぐに》
   三日月さまも
山の蔭から
   蔭へとはいる

山の蔭かよ
   三日月さまは
但馬山国
   恋の星月夜


[#1字下げ]春降る雪[#「春降る雪」は大見出し]

何《な》にが 不思議だ
春降る雪は ヨー

山の峰さへ
一夜《いちや》で解ける

わしの扱帯《しごき》も
春降る雪か ヨー

伊那《いな》に来た夜に
不思議に解けた


[#1字下げ]伊那の龍丘[#「伊那の龍丘」は大見出し]

伊那《いな》の龍丘《たつをか》
   桃の花盛り

春蠶《はるこ》掃きませうか
   籠ロヂ乾そか

春蠶|毛子《けご》になつた
   日和はよいし

簇《まぶし》たたいて
   桑摘み唄よ


[#1字下げ]霧ヶ岳から[#「霧ヶ岳から」は大見出し]

霧ヶ岳から
   朝立つ霧よ
霧を見てさへ
   父母《ちちはは》さまを
思ひ出されて
   どうもならぬ

故郷恋しい
   あの山蔭の
霧は消えても
   父母さまを
思ひ出されて
   どうもならぬ


[#1字下げ]かなしい海[#「かなしい海」は大見出し]

ざんぶざんぶと
   越後の海は
恋の海かよ
   海鵯《うみひよどり》よ

 はなればなれに
   波々打つな

同じ海でも
   越後の海は
ざんぶざんぶと
   かなしい海か

 はなればなれに
   波々打つな


[#1字下げ]茄子畑[#「茄子畑」は大見出し]

茄子《なすび》ヤうれたかと
畑を覗きや

茄子ヤうれずに
まだ花盛り

ひよいと茄子の
木の下見たりや

蟻の行列ア
続いてる


[#1字下げ]運動踊り(四季の歌)[#「運動踊り(四季の歌)」は大見出し]

[#2字下げ]春[#「春」は中見出し]

春の花かよ
   桜の花は
春の花だよ
   あの花は
 チヤチヤラチヤ ヤツトサ

[#2字下げ]夏[#「夏」は中見出し]

夏の空かよ
   夕立雲は
夏の空だよ
   あの雲は
 チヤチヤラチヤ ヤツトサ

[#2字下げ]秋[#「秋」は中見出し]

秋の月かよ
   尾花の上に
秋の月だよ
   あの月は
 チヤチヤラチヤ ヤツトサ

[#2字下げ]冬[#「冬」は中見出し]

冬の風かよ
   山吹く風は
冬の風だよ
   あの風は
 チヤチヤラチヤ ヤツトサ


[#1字下げ]宮城野小唄[#「宮城野小唄」は大見出し]

  □

さんさ時雨《しぐれ》は
夜来ちや
降りやる
萱《かや》の枯れ穂に来ちや
降りやる

  □

塩の塩釜《しほがま》
石の釜
欲しや
鉄の錆釜ぢや
塩アたけぬ


[#1字下げ]つばくらめ[#「つばくらめ」は大見出し]

浜町《はまちやう》へ 来て幾年になるだらう
物干台の
つばくらめ
お前も旅の鳥だわネ

昨日《きのふ》までなにも云はずにゐたけれど
わたしも旅の
鳥なのヨ

もうわたしや遠いところへ
ゆくんだよ
物干台の
つばくらめ

今日《けふ》はわかれだ
泣かないか


[#1字下げ]お艶[#「お艶」は大見出し]

お艶《つや》が風呂にはいつてゐると
若い男が
だましに来た
小さい声でだましてゐる

お艶がざぶり湯をかけてやると
男はうろうろしてゐたが
裏から
すーつと逃げて行つた

馬は厩《うまや》で
馬堰棒《ませんぼ》を
がらんがらんと鳴らしてゐる
天の川は北から西へ流れてゐた


[#1字下げ]旅の鳥[#「旅の鳥」は大見出し]

山に春雨
   野に茅花《つばな》
花のかげかは
   つばくらめ
去年|常陸《ひたち》の
   ふるさとの
山に来もした
   つばくらめ

雨は降れども
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