歌聞ゆ
海の遠くを毎日見ても
島も見えない小鳥もゐない
島は見えずも小鳥はゐずも
かはい小鳥がうたふ歌聞ゆ
誰も知らない遠くの島で
かはい小鳥がかはい歌うたふ
[#1字下げ]洪水の跡[#「洪水の跡」は大見出し]
洪水の跡に
コスモス咲き
赤い蜻蛉《とんぼ》が
とまつてゐる
赤い蜻蛉よ
旅人は
どこまで行つた
[#1字下げ]謎[#「謎」は大見出し]
わたしや恥かし
喜蔵《きざう》さんの謎が
枝垂柳の謎ばかり
かける
解けと言《ゆ》ふたとて
解かりよか 謎よ
これさ 喜蔵さん
かけずにおくれ
[#1字下げ]はぐれ烏[#「はぐれ烏」は大見出し]
烏 啼くから
出てみりやゐない
お母《つか》さんよ
わたしや烏に
だまされた
だまされた
はぐれ烏だ
だました 烏
お母さんよ
烏ア啼いても
もう出ない
もう出ない
[#1字下げ]窓[#「窓」は大見出し]
夜になるとお月さんは
窓に来た
そーツと窓から
覗いてる
お月さんは しばらく
来なくなつた
闇夜の夜ばかり
続いてる
今朝《けさ》見りやお月さんは
ぽツと出てた
有明お月さんに
なつてゐる
[#1字下げ]日永[#「日永」は大見出し]
土に物問うた
畑の土に
土が物|言《ゆ》うた
畑の土が
日南《ひなた》ぼつこして
ゐたよと言ふた
[#1字下げ]お茶師[#「お茶師」は大見出し]
木瓜《ぼけ》の花咲く
日和《ひより》は続く
お茶師《ちやし》ヤ来るのも
もう間はなかろ
裏の畑の
茶の樹を見たりや
雀アならんで
とまつてる
[#1字下げ]大洗沖[#「大洗沖」は大見出し]
鹿島灘越しや
船玉さまよ
アレサ マア
大洗《おほあらひ》沖の
アレサ マア
隠れ御礁《おんね》の
磯が鳴る
[#1字下げ]草刈り娘[#「草刈り娘」は大見出し]
わたしや田舎《ゐなか》の
草刈り娘
草は千駄《せんだん》
刈らなきやならぬ
ザツクリ ザツクリ
ザツクリサ
草の千駄
夜明の星《のんの》
わたしや思はぬ
日とてない
ザツクリ ザツクリ
ザツクリサ
[#1字下げ]金雀枝[#「金雀枝」は大見出し]
金雀枝《えにしだ》の花咲く頃は
ほととぎすが啼く
ほととぎすが啼く
故郷《ふるさと》の森の中にも
もう 金雀枝の
花咲く頃か
ほととぎすが啼く
ほととぎすが啼く
[#1字下げ]風の音[#「風の音」は大見出し]
[#2字下げ]一[#「一」は中見出し]
裏戸覗きやる
口笛ヤ吹きやる
わたしや気が気ぢや
ゐられない
逢へる身ならば
逢ひにも出よが
元のわたしの
身ではない
[#2字下げ]二[#「二」は中見出し]
戸縁《とぶち》叩きやる
小声ぢや呼びやる
とても気が気ぢや
ゐられない
空の星でも
縁なきや流る
薄い縁だと
おぼしやんせ
[#2字下げ]三[#「三」は中見出し]
石は投げしやる
雨戸にやあたる
もうも気が気ぢや
ゐられない
この家《や》去れとて
石投げしやるか
石に言はせに
来やしやるか
[#2字下げ]四[#「四」は中見出し]
去つちやくれろと
石投ぎやしない
風の音だと
思やしやれ
風の音だと
よく言《ゆ》ふてくれた
窓にもたれて
泣いたぞえ
[#1字下げ]畑ン中[#「畑ン中」は大見出し]
(ある農夫の歌の VARIATION)
真昼間《まつぴるま》でごわせう
畑ン中に、田鼠《むぐらもち》が一匹
斑犬《ぶち》に掘りぞへられて
イヤハヤ
むんぐらむんぐら居やあした
畑の土は、開闢このかた、黒いもんか
どなもんか
真《まこと》の所、烏に聞いて見やあすべい
畑ン中は、青空天上、不思議はごわすめえ
喉笛鳴らした ケー ケー ケー
鶏《かしは》が走つた
こりやまた事だと魂消《たまげ》払つて見てやあした。
蜻蛉《あけづ》が一匹
追つかけ廻つた、啄《つつ》くわ 啄くわ
ぶつ飛びあがつた、飛んだわ 飛んだわ
蜻蛉は御運《ごうん》でござりあした
地主様の一人娘が
娘に二種《ふたいろ》何処にごわせう
どどの詰りが
エヘン
孕み女子《をなご》になりやあした
畑ン中の豆ン花|何《ど》なもんだ
朝つぱらから何事ぶたずに
べろりと咲いてござりやあす
[#1字下げ]道楽薬師[#「道楽薬師」は大見出し]
願ひかけました
米山《よねやま》さまへ
縁をつないで
お呉れよとかけた
末はどうでも
お薬師さまよ
せつぱ詰つた
つないでお呉れ
帯で結んでも
切れる縁は切れる
どうせ米山も
お道楽薬師
切れるまでにも
つないでお呉れ
[#1字下げ]蚊喰鳥[#「蚊喰鳥」は大見出し]
春も末かよ
葉桜の
蔭
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