が廻る
なにもかかりませうか
雨だれ
小だれ


[#1字下げ]釜山にて[#「釜山にて」は大見出し]

牧《まき》の島から
  対馬《つしま》が見ゆる

最早対馬も
  春だろに

海にや海霧
  朝から立ちやる

対馬見るなの
  霧ぢややら


[#1字下げ]鼬[#「鼬」は大見出し]

鼬《いたち》ア騒ぐから
背戸へ出て見たりや

烏ア河原で
水浴びしてた

山の頂上にや
薄雲かかる

今夜 山から
雨ア降るか


[#1字下げ]娘と劉さん[#「娘と劉さん」は大見出し]

[#2字下げ][#中見出し]※[#ローマ数字1、1−13−21][#中見出し終わり]

     娘
劉《リウ》さん
赤ん坊《ぼ》が生れたならばどうしませう
何処《どこ》へたのんで育てませう
     劉
ワタシ ワカラナイ アナタ スル ヨロシー
     娘
横浜の叔母さん所《とこ》へ遣りませう
新しい一身《ひとつみ》の一《ひとつ》も着せて遣りませう

[#2字下げ][#中見出し]※[#ローマ数字2、1−13−22][#中見出し終わり]

     娘
叔母さんに断られたらどうしませう
     劉
ワタシ クニ トホイ ワカリマセン
     娘
悲しいけれど捨てませう
顔の見えない闇の晩
ミルクの管を哺《くく》ませて――公園のベンチの上に捨てませう

[#2字下げ][#中見出し]※[#ローマ数字3、1−13−23][#中見出し終わり]

     娘
お月夜の晩であつたらどうしませう
お月夜が続いて居たらどうしませう
育てませうか捨てましよか
     劉
ワタシ ニホン タツ アナタ タノム
     娘
薄情な 薄情な 劉さん
思ひ切つて――悲しいけれど捨てませう
ベンチの上に青青と月がさしたら泣くでせう
わたしの顔をきつと眺めて泣くでせう
劉さん
劉さん
その時のわたしの心はどんなでせう



底本:「定本 野口雨情 第一巻」未来社
   1985(昭和60)年11月20日第1版第1刷発行
底本の親本:「雨情民謡百篇」新潮社
   1924(大正13)年7月14日刊
初出:紅殻とんぼ「婦人世界」
   1924(大正13)年7月
   捨てた葱(原題 葱)「日本詩集 一二二五版」
   1925(大正14)年4月
   青いすすき(原題 細いすすき)「婦人世界」
   1924(
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