雨は
さらり さらりと
身にしみる


[#1字下げ]沙の数[#「沙の数」は大見出し]

潮がれ浜で聞く唄は
みんな悲しい
唄ばかり

沙の数ほどかぞへても
別れた人は
帰らない

涙ぐましくなつて来て
泣かずに 泣かずに
ゐられよか


[#1字下げ]昔の月[#「昔の月」は大見出し]

お前と逢うた
武蔵野に
青い 昔の 月が出た

お前も 見たろ
武蔵野の
畑の中に家が建つ

畑の 中の 夕雲雀《ゆふひばり》
もう おれは
故郷《くに》へ帰るぞよ


[#1字下げ]帰らぬ人[#「帰らぬ人」は大見出し]

川の向うで
水鶏《くひな》が 啼いた

  帰りやんせ
  帰りやんせ

月も おぼろに
河原さ出てる

  帰りやんせ
  帰りやんせ

きつと忘れて
ゐるんだよ


[#1字下げ]片恋[#「片恋」は大見出し]

恋しくて
裏へ出て見りや
青い空

はかない
わたしの
片恋《かたこひ》よ

はかない
わたしに
何故《なぜ》したの

荒海《あらうみ》のやうな
こころに
何故したの


[#1字下げ]煙草の花[#「煙草の花」は大見出し]

お蔦《つた》嫁さま
煙草《たばこ》の花は
元の男の 畑に咲いた

お蔦嫁さま
もう 諦めた
何にも縁だと もう諦めた

切れた障子の
穴から見たら
後向きして糸繰りしてる


[#1字下げ]石地蔵[#「石地蔵」は大見出し]

学校先生よ
  石地蔵さまも
赤い涎掛《よだれかけ》
  かけてゐる

烏ア欲しくて
  涎掛見てる
学校先生よ
  何《な》じよにしぺ


[#1字下げ]櫛[#「櫛」は大見出し]

裏の川端の
さらさら蓬《よもぎ》

思ひ返して
みる気はないか

今朝《けさ》も 裏戸に
櫛が落ちてゐた

通つて来たのか
可哀想なものだ


[#1字下げ]葛飾の夏[#「葛飾の夏」は大見出し]

卯の花が散る
時鳥《ほととぎす》が啼く
沼の中に
菖蒲《あやめ》の花も咲いてゐる

沼の中の
菖蒲の花よ
葛飾に
今|二月《ふたつき》もゐたかつた

家も屋敷もない 己《おれ》は
去年の夏は東京に
今年の今は葛飾に
わかれねばならぬ時が来た

この住み馴れた
葛飾の
菖蒲の花よ
また逢はう


[#1字下げ]港の時雨[#「港の時雨」は大見出し]

蛇の目|傘《からかさ》に
時雨《しぐれ》が降るに

月日かぞへて
港を見てる

待つ
前へ 次へ
全17ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
野口 雨情 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング