中なんですが、『兎来いの唄』が聞えたので、どうかしてゆきたいと、やつとのことで此処《ここ》まで参りました。』
『お月さまの中まで唄が聞えたの。』
『そりやアもう、手にとるやうによく聞えますよ。わたしのお友達は皆な真似てうたつてをりますもの。』
『さうなの』と、つね子さんは大へん感心をしまして、赤い鼻緒の草履と赤い花|簪《かんざし》とを買つてやりました。子兎は赤い鼻緒の草履をはいて、赤い花簪をさして嬉しさうに、

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生れて 初めて
赤い草履《ぞんぞ》はいた

生れて 初めて
赤い簪さした

お月さんの国へ もう帰らずに
ここのお庭の兎にならう。
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と、うたひました。つね子さんも、

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お月さんの国へ もう帰らずに
ここのお庭の兎におなり

草履《ぞんぞ》切れたら
また買つてあげよう

赤い簪《かんざし》
また買つてあげよう
[#ここで字下げ終わり]

と、お庭中うたつて歩きました。子兎もつね子さんの後について、お庭中うたつて歩きました。
 そのうちに、日が暮れて、夕《ゆふべ》のお月さまが東の空からあがつて来ました。

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