ぼる
茶摘み女《をなご》も
もう来やう
○
茶摘みアしまへば
鮎ア瀬を
くだる
早瀬眺めて
袖しぼる
[#ここから4字下げ]
(註。大分県日田郡は野生茶の産地なり)
[#ここで字下げ終わり]
[#1字下げ]尾張奥町機場唄[#「尾張奥町機場唄」は中見出し]
[#2字下げ]一[#「一」は小見出し]
おいで おいで おいで
この町《ちやう》へおいで
来たら序《つひで》に
機織つておいで
住んで住みよい
暮してゐよい
尾張奥町は
機場でござる
[#2字下げ]二[#「二」は小見出し]
啼いた 啼いた 啼いた
また来て啼いた
軒端覗きに
ちよいと来た雀
今夜来よとて
逢はれるものか
尾張奥町は
月夜でござる
[#改段]
野雀・雀[#「野雀・雀」は大見出し]
[#1字下げ]野雀・雀[#「野雀・雀」は中見出し]
旅の(チンチン)雀か
野雀 雀
夜さへ(チンチン)明ければ
啼く雀
山で(チンチン)寝ました
枯れ木の下に(ネ)
磯で(チンチン)寝ました
小石の上に(ネ)
今は(チンチン)宿なし
野雀 雀
空を(チンチン)眺めて
日を送る
[#1字下げ]人形さん[#「人形さん」は中見出し]
七つ八つまで
赤い下駄はいた
人形さんよ
赤い下駄見りや
思ひ出す
赤い鼻緒の
下駄はく頃にや
人形さんよ
わたしやお母《つか》さんと
ねんねした
いつの間にやら
物恥かしい
人形さんよ
淡いあはれの
夢もみる
[#1字下げ]三千世界[#「三千世界」は中見出し]
広いこの世は
三千世界
親のない子は
皆おいで
[#1字下げ]わが涙[#「わが涙」は中見出し]
砂の数ほど
かぞへて見たが
かぞへきれない
わが涙
[#1字下げ]雀の鳥[#「雀の鳥」は中見出し]
みんなおなりよ
雀の鳥に
雀ア家蔵《いへくら》
建てやせぬ
[#1字下げ]みなと[#「みなと」は中見出し]
山が晴れれば
母《かか》やんよ母やんよ
あれサ港に
風が吹く
風はわかれの
母やんよ
あれサわたしの
袖に吹く
山が曇れば
父《とと》やんよ 父やんよ
あれサ港に
雨が降る
雨は涙の
父やんよ
あれサわたしの
袖に降る
[#1字下げ]茨の実[#「茨の実」は中見出し]
おお寒む
寒むや
赤い茨の
実が落ちる
山の木の実も
落ちたやら
おお寒む
寒むや
霜は山にも
降つたやら
[#1字下げ]因幡夕焼[#「因幡夕焼」は中見出し]
因幡夕やけ
どの山見ても
山にや
木のない
山ばかり
山にや
木はない
あの山あたりや
備前備後か
岡山か
[#1字下げ]行々子[#「行々子」は中見出し]
葦《よし》の葉蔭でカツサカサと
行々子《よしきり》ア騒ぐ
石を投げたら日の暮れ頃だにヨ
飛んで逃げた
葦は夕凪ぐカツサカサと
行々子ア帰れ
飛んで逃げよと日の暮れ頃だにヨ
石ア投げぬ
[#1字下げ]鯉の滝登り[#「鯉の滝登り」は中見出し]
鯉の滝登り
鯉の滝登りヤ
水をたよりに
滝をのぼる
滝にや滝の水
樋の水はネ
樋《かけひ》たよりに
流れてる
[#1字下げ]笑ふ門[#「笑ふ門」は中見出し]
笑ふ門《かど》には
福来るたとひ
笑て暮らそよ
皆さんよ
笑ろて暮せば
家内中《かないぢゆう》平和
愉快 愉快で
暮らされる
愉快 愉快で
家内中暮らしや
いつも穏《おだやか》
波ア立たぬ
[#1字下げ]常世の春[#「常世の春」は中見出し]
空は花ぐもり
菜の花日和
紅い花咲きや
皆恋しがる
紅い花から
こぼれて落ちる
花の雫は
汲んでも尽きぬ
少女《をとめ》若かれ
世は長閑《のどか》なれ
花は常世《とこよ》の
春に咲く
[#改段]
農民歌[#「農民歌」は大見出し]
[#1字下げ]農民歌[#「農民歌」は中見出し]
一鍬《ひとくわ》打ちな
サツクリコと打ちな
二鍬《ふたくわ》打ちな
ウントサと打ちな
この畑《はた》耕しや
一《ひと》やすみ
莨《たばこ》の煙の
一やすみ
[#1字下げ]春の来る日[#「春の来る日」は中見出し]
春の来る日にや
こころの底に
娘さんだちよ
草がちよつぴり
萠《も》やせぬか
萠えた草だと
摘まずにおけば
娘さんだちよ
軈《やが》て葉が出て
葉が茂る
茂るその葉を
そのままおけば
娘さんだちよ
遂にやちらほら
花も咲く
[#1字下げ]そらとぶ鳥[#「そらとぶ鳥」は中見出し]
空飛ぶ鳥なら
行く先やどうでも
青空まかせに
飛ばなきやならない
帆かけた船なら
行く先やどうでも
吹く風まかせに
走らにやならない
引かれた袖なら
行く先やどうでも
行く先まかせに
行かなきやならない
流れる水なら
行く先やどうでも
瀬と淵まかせに
流れにやならない
[#1字下げ]横丁生れ[#「横丁生れ」は中見出し]
お乳母日傘の
娘さん達よ
わたしや下街《したまち》
横丁の生れ
蝶よ花よぢや
育ちやせぬ
産みの親より
育ての親ぢや
親も横丁の
角《かど》生れ
わたしや皆さん
気も荒い
[#1字下げ]狐見るたび[#「狐見るたび」は中見出し]
狐見るたび
おら考へる(ドツコイ)
可愛女に
なぜ化けぬ
化けてくれれば
話しもあるが(ドツコイ)
化けにや狐と
話されぬ
[#1字下げ]踵[#「踵」は中見出し]
踵《かかと》たたいたりや
踵見て泣いた
踵見ながら
笊投げた
笊は空笊《からざる》
ころげてまはりや
踵忘れて
笊見てる
[#1字下げ]子蜂[#「子蜂」は中見出し]
梨の番すりや
蜂の子が憎や
子蜂アな
子蜂ア飛んで来て
梨刺した
[#1字下げ]あの山蔭[#「あの山蔭」は中見出し]
山は 霜枯れ
月や細枯れる
お月や出てても
あの山蔭にや
鬼が棲む[#「棲む」は底本では「褄む」]だろ
なヨ 母《かか》や
[#1字下げ]もと米磨ぎの唄[#「もと米磨ぎの唄」は中見出し]
桶をながめてお米が磨げりや
お百姓さんは
田さへながめりや蔵が建つ
(トコ トコダト磨ぎぬきな)
一桶《ひとをけ》磨ぐのにや十桶《とをけ》の水汲み
夜明けの明星は
まだまだチラリだ
(トコ トコダト磨ぎぬきな)
この桶あげなきや仕込みがおくれる
仕込みがおくれりや
お暇《いとま》出される
(トコ トコダト磨ぎぬきな)
お暇出されりや酒蔵《おくら》とおわかれ
そのときや
あの娘《こ》と泣きわかれ
(トコ トコダト磨ぎぬきな)
そのときやそのときおさらばさらばだ
天道《てんと》さままかせに
足まかせ
(トコ トコダト磨ぎぬきな)
さうなりやこの地へ来年来るやら
当《あて》さへないから
尚更あの娘《こ》と泣きわかれ
(トコ トコダト磨ぎぬきな)
[#1字下げ]西瓜の番[#「西瓜の番」は中見出し]
西瓜畑さ
おら行《ゆ》かぬ
狐がゐるから
おら行かぬ
ホイホイちけ
西瓜の番
西瓜畑で
寝てたちけ
[#1字下げ]畑のとんぼ[#「畑のとんぼ」は中見出し]
とんぼ追つかけたら
畑さ逃げた
とんぼよウ
とんぼア畑で
スウイ スイ
[#1字下げ]お百姓生れ[#「お百姓生れ」は中見出し]
おらは田舎の
お百姓生れ
田螺《たにし》ながめて
暮してた
お前や東京の
お嬢《ぢよ》さま育ち
おらと生れが
ちがひやさ
[#1字下げ]麦の芽[#「麦の芽」は中見出し]
麦が芽を吹きや
雁《がん》 雁 帰る
一羽《いつぱ》帰れば
また一羽帰る
帰る雁でも
別れは惜む
畑見ながら
啼いて立つ
[#1字下げ]わしが鳥なら[#「わしが鳥なら」は中見出し]
わしが鳥なら(ヨー)
烏の鳥に(ヤンレサホイ)
啼いて夜明けを(ヨー)
知らせたい(ヤンレサホイ)
啼いて夜明けを(ヨー)
烏の鳥は(ヤンレサホイ)
騒ぎまはして(ヨー)
ふれあるく(ヤンレサホー)
[#改段]
茶ツ葉[#「茶ツ葉」は大見出し]
[#1字下げ]茶ツ葉[#「茶ツ葉」は中見出し]
[#2字下げ]一[#「一」は小見出し]
雀ア帰るに
かはたれ頃に
小雪ヤちらりと
来て降つた
茶の樹畑の
茶の茶ツ葉に
[#2字下げ]二[#「二」は小見出し]
雀ア来ちや啼き
来ちや見て啼いた
茶の樹畑の
茶ツ葉の上に
小雪ヤ降つちや解け
降つちや解けた
[#2字下げ]三[#「三」は小見出し]
茶の樹畑にや
茶の樹の茶ツ葉
小雪ヤ降るのに
かはたれごろに
雀ア茶ツ葉に
とまつてた
[#1字下げ]秩父三峰[#「秩父三峰」は中見出し]
朝にや朝霧
夕《ゆふべ》にや
狭霧《さぎり》
秩父|三峰《みつみね》ア
霧の中
霧にまかれりや
三峰さまも
霧にまかれた
ままで
寝る
[#1字下げ]菜の花畑[#「菜の花畑」は中見出し]
畑に菜の花
咲いたとさ
菜の花咲いたら
見てよかな
菜の花畑は
夕明り
日暮れにやお星も
出るだとさ
お星も出たなら
見てよかな
お星もちらちら
夕明り
[#1字下げ]鐘になりたや[#「鐘になりたや」は中見出し]
鐘になりたや
チヤン チヤカ チヤンの鐘に
叩きやチヤン チヤカ チヤンと
鳴る鐘に
チヤン チヤカ チヤンとナ
鐘は気楽ぢや
チヤン チヤカ チヤンのチヤンと
叩きや チヤン チヤカ チヤンの
チヤンと鳴る
チヤン チヤカ チヤンとナ
どうせなるなら
チヤン チヤカ チヤンの鐘に
叩きや チヤン チヤカ チヤンと
鳴る鐘に
チヤン チヤカ チヤンとナ
鐘になりたや
チヤン チヤカ チヤンのチヤンと
丸く角《かど》なく
暮したや
チヤン チヤカ チヤンとナ
[#1字下げ]秋風[#「秋風」は中見出し]
夕となれば
風は秋かや
そよそよと
野末の草に
そよそよと
風は吹く
野末の風も
今は秋なれや
野に鳴く虫は
秋の虫かや
ほそぼそと
草端の蔭に
ほそぼそと
虫は鳴く
草端の虫も
今は秋なれや
[#1字下げ]津島小唄[#「津島小唄」は中見出し]
津島 津島と
日の暮れ
頃はよ
風も津島へ
吹きたがる
風に吹かれりや
草木でも
靡くに
袖に吹く風
吹いて来る
[#ここから4字下げ]
(註。愛知県津島町は昔より美女多しと伝へらる)
[#ここで字下げ終わり]
[#1字下げ]はぐれ烏[#「はぐれ烏」は中見出し]
烏ア啼くから
出て見りやゐない
お母《つか》さんよ
わたしや烏に
だまされた
オヤお母さんよ
はぐれ烏だ
だました烏
お母さんよ
烏ア啼いても
もう出ない
オヤお母さんよ
[#1字下げ]御山小唄[#「御山小唄」は中見出し]
[#2字下げ]一[#「一」は小見出し]
霧にまかれりや
御山《おやま》が曇る
シヤンシヤンシヤン
御山曇れば
馬よ
雨となる
[#2字下げ]二[#「二」は小見出し]
御山雨降りや
つまさき辷《すべ》る
シヤンシヤンシヤン
辷りやころげる
馬よ
谷底へ
[#2字下げ]三[#「三」は小見出し]
谷は深谷
底なし地獄
シヤンシヤンシヤン
落ちりや地獄だ
馬よ
気をつけな
[#2字下げ]四[#「四」は小見出し]
せくな 急ぐな
頂上にや遠い
シヤンシヤンシヤン
せかず急がず
馬よ
早よ歩け
[#2字下げ]五[#「五」は小見出し]
風が強うなりや
御山は晴れる
シヤンシヤンシ
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