のあること此の式の特色なりといへり、面相殊には鼻のつくりざまなども、目立ちて異なるやう覺ゆ。狩谷望之が古京遺文にて讀みたりし光焔背の銘、疑を正さんによき折と思へど忙しき見物なれば心に任せず。百濟王の獻じたりといふ觀音木像、丈九尺幅二尺餘、纖にして脩、柳絲の地に貼せるが若し、木像の四天王は佛壇の四偶[#「偶」は「隅」の誤りか]に在りて、直立して得物を執れるさま、捧げ銃を行ふ番兵に似たり、手脚弩張せず、顏貌も苦りてはあれどたけりては在らず、山口直作といへば、推古の世のものなるべし。折しも寶庫開扉にて眞僞は知らず、馬子大臣の畫などいふあり、金岡の畫といふもあり、「文」にて教へられしアツシリヤ風の模樣ありといふ騎馬にて虎を射るさまの人物を織り出したる錦旗は、四天王紋と寺にては傳ふるなり、金堂の天蓋なる技藝天女の像は此に陳列してあり。傳法堂の乾漆佛は戸外よりのぞきしのみ、夢殿の觀音は祕佛にて拜まれぬよし、中宮寺の如意輪觀音も、穗井田忠友が觀古雜帖にて摸本ばかりは見し天壽國曼陀羅も、容易くは拜まれずといふにて止みぬ、古寫經の屏風なども多かりしも仔細に諦觀せんひまなかりしをかこたんは、あまりに欲深く
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