は役所の帳面の事を謂ふのである、其處で文書を掌る者を史といふのは、役所の帳面を手に持つて居る形である、之が史と云ふ字の根本の意味である、史といふ官は前にも申しました通り府史胥徒といつて、種々な官の史と云ふ者があります、其所で帳面を持つて居る形で以て史と云ふものが出來たのである、これが江永の説である、此説は餘程好い所がありまして、中と云ふものが簿書の意味だと云ふことから史の義を解釋した、呉大澂の方は史の字の中が、中正の中でないといふ上から解釋したのでありますが、夫に就て私はもう少し深く考へて見たいと思ふのです。
 近來京都に來て居る羅振玉といふ學者は文字のことに精通して居る人であるが、此人が殷虚書契の考釋の中に、中の字は普通の中の時は※[#「※」は「中」の篆書体別体2、読みは「ちゅう」、154−3]ともかき※[#「※」は「中」の篆書体別体1、読みは「ちゅう」、154−3]ともなつて居る、史の上の中の字は※[#「※」は「中」の篆書体、読みは「ちゅう」、154−3]斯ういふ形になつて居る、中正の中とは違ふと云ふことを云て居る、其は呉大澂の説も羅氏の説も或點までは一致するのであります、併し其の
前へ 次へ
全27ページ中17ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
内藤 湖南 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング