中にもあるが、弘法大師眞蹟書訣と云ふ本があります。是は江戸の屋代弘賢と云ふ人が是れに註釋などをして出版をして居りまして、それが能く行はれて居つたので、今度の全集にはそれから取つたと云ふことを斷はられて居りますが、兎に角昔から有名な本になつて居ります。所が此の本に就いて疑問を懷く人がありますが、私は兎に角弘法大師の著述であらうと云ふことは、疑問を懷いて居りませぬ。六朝から唐代まで掛けて、書法の事に就いて書いた本はいろ/\ありますが、其の書き方と云ふものは大體弘法大師眞蹟書訣と云ふ本の書き方に類似して居りまして、大師の書かれたのは唐代に書かれたから、さう云ふ類似があると云ふことを信じて居りますから、贋作でないと云ふことを信じて居ります。併し私に間違がありました。此の事に就いて茲に御斷はりをして置かなければならぬのは、私の友人に須藤南翠と云ふ有名な小説家があります。此の人は近年通俗讀本と云ふやうな體裁で『空海』と云ふ本、即ち弘法大師御一代の事を書いた本を著はした。それで私は懇意の間柄でありますから、何か序文らしいものを書いて呉れと云ふので、私は詳しい研究も何もありませぬが、唯だ書の事に就いて
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