い時代の循吏といふやうなものはそれだけの要素があれば宜い。それで地方官などをしてさういふことに秀でた人を、成績が擧つて居るから、宰相にしたら宜からうといふので、中央政府に引張つて來て宰相にすると、さつぱり役に立たなかつた人などがあります。所がその後唐宋以後になりますと、官吏の生活といふものが餘程變つて來ます。單にさういふ名裁判をやつたり、富豪や無頼漢を押へ付けたりするだけのことではいかぬやうになつた。殊に近代になつては、日本でも官海游泳術といふ言葉がありますが、官海游泳をするのにはいろ/\な技巧を要するやうになりまして、生活が大變複雜になつて來ました。それで支那には妙な官海游泳の技巧の教科書がある、宋あたりからそれがあります。それで宋以後の官海游泳といふものが如何に技巧を要するものになつて來たかといふことが分ります。清朝になつて出來たもので、日本の古本屋にいくらでも轉がつて居る福惠全書といふものがあります。日本でも徳川時代にはあゝいふ本に感服しなければならぬ事情があつたと見えて、之を訓讀して出版した人は、態々長崎まで行つて、支那人にいろ/\聞いて假名を附けて出版をして居る。今では殆んど
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