想念は全く衰へたれば、農工商の實業、理化動植の諸科が各單獨孤立して相關せざるは勿論、有形の人を統一すべき政法、無形の人を統一すべき宗教を講ずる者に在ても、その職を以て全社會を經緯するの任とせず、その言ふ所自ら守りて相犯さざるを之れ主とし、政教分離といひ、三權鼎立といふが若き極端に走るに至れり、四五百年來、今代に通じて社會人心を支配するの大勢力なる者は、實に此の分裂の現象なり。
天運は果して循環するか、今の一致や昔の一致の若きを得べからずと雖も、分裂の形勢が、看々將さに終らんとするは、一致の形勢が將さに來らんとするの徴にあらずして何ぞや。歐洲諸國は封疆の戒嚴昔に加ふるあり、國家主義の流行は寧ろ分裂の形勢を催進するが若しと雖も、是れ實は大に統一せんとするが爲の準備たるに疑なし。春秋の七雄に合して、更に秦に併呑せらるゝが若く、兼并の極は一に歸して已まんには、今日歐洲諸國が其内は歐陸に於て、外は亞細亞、亞弗利加等に於て、相競て兼并大を致す者、必ずや更に大の大なる者を來す階梯たらずといふを得ず、力に合せんか、露は現に列國の深患大敵とする所にあらずや、財に合せんか、支那人、アングロサクソン人の利に
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