見られない。今日迄に世に現れた反薩長派の著しい著述はこれ等一二のものに過ぎないけれども、維新の事情に對する順逆論の從來の態度を開放したならば、斯くの如き著述は幾つも現れて來るべきものであると思ふ。
尤も會津藩の如く、孝明天皇の非常な知遇を蒙つて居りながら、非常な殘酷な運命を以て終つたが爲めに、非常な深刻な感じを持つた地方は多くはないわけであるから、「守護職始末」の如き名著は出來難いとしても、兎も角維新の事情に對して反薩長側の意思、主張を十分に述べたものは現れるに違ひない。それは必ずしも纏まつた著述としてでなくとも、今日ならばまだ材料としても、さういふものを集め得る機會もあると思ふ。
維新史料編纂局が果して是等に對して十分なる用意を持ち、十分なる注意を拂つて居るかどうか、維新史料編纂局は開設以來其の成績を公表したこともなければ、如何なることをして居るかも世間に知らしめたこともない。これは政府の一つの機關をなすものゝ態度としても實に怠慢の至りであつて、世論が少しも之を問はない事が既に不可思議の次第である。今日迄の如き委員等の組織から考へると、その材料蒐集の態度等においても十分の疑問をさ
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