る》などは。いまれたることにて候えば。やまいなどかぎりになりては。くうべきものにては候わねども。当時きとしぬばかりは候わぬ病の。月日つもり。苦痛もしのびがたく候わんには。ゆるされ候なんと覚《おぼ》え候。御身おだしくて。念仏申さんと思食して。御療治候べし。命おしむは往生のさわりにて候。病ばかりをば。療治はゆるされ候なんと覚え候」
鎮西から上って来た或る一人の修行者が法然の庵室へまいって、まだ上人に見参しない先きに、お弟子に向って、
「称名の時に仏様の御相好《おそうごう》に心をかけることはどうでございましょうか」
と尋ねた処が、お弟子が、
「それは芽出度いことであろう」
と独断で答えたのを法然が道場にあって聞いていたが、明り障子を引きあけて、
「源空はそうは思わない。ただ若我成仏《にゃくがじょうぶつ》。十方衆生《じっぽうしゅじょう》。称我名号《しょうがみょうごう》。下至十声《げしじっしょう》。若不生者《にゃくふしょうしゃ》。不取正覚《ふしゅしょうがく》。彼仏今現《ひぶつこんげん》。在世成仏《ざいせじょうぶつ》。当知本誓《とうちほんぜい》。重願不虚《じゅうがんふこ》。衆生称念必得往生《
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