誌によらず、この形式で処女単行として世に出し得られる仕組みになっている。偏《ひとえ》に御賛成を願いたいものである。
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神武紀元二千五百九十八年
西暦千九百三十八年
昭和十三年
春のお彼岸の日
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[#地から2字上げ]百姓弥之助 敬白
[#改段]
第一冊 植民地の巻
一
百姓弥之助《ひゃくしょうやのすけ》は、武蔵野の中に立っている三階|艶消《つやけし》ガラスの窓を開いて、ずっと外を見まわした。いつも見飽《みあ》きている景色だが、きょうはまた馬鹿に美しいと思った。
秩父《ちちぶ》連山雄脈、武蔵アルプスが西方に高く聳《そび》えて、その背後に夕映の空が金色にかがやいている、それから東南へ山も森も関東の平野には今ぞ秋が酣《たけなわ》である、弥之助のいる建物は武蔵野の西端の広っぱの一戸建の構えになっている。南に向いている弥之助の眼の前は畑を通して一帯の雑木林が続いて、櫟《くぬぎ》楢《なら》を主とする林木が赤に黄に彩られている、色彩美しいと云わなければならぬ。その雑木林から崖になっている多摩川沿いに至るまでの間がここの本
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