るのであって、優良種を自家で孵化《ふか》するのは方法から云っても手間から云っても六つかしいとされているが、ただ自家用産卵をさせる為ならば、地鶏《じどり》というのがいいそうである、これは鶏としての体躯も小さいし、卵も小ぶりではあるけれど、これなら、非常に容易《たやす》く、自分の家で孵化することが出来るそうである、今度は、その種類を少しやって見たいと思っている。
百姓弥之助は有畜農業を是非する訳ではないが、新百姓であり、かたがた動物性の方は成るべく避けて、植物性農業を主とする方針であった。
そこでこの辺では副業というよりは寧ろ主業とする所の養蚕は、最初から全くやらない方針で、桑園の桑をすっかり抜き取ってしまった。そうしてその後へはすべて作《さく》を作る方針にして居る。これは此処《ここ》何年というもの、ずっと生糸の値下りから各町村でも、なるべく桑園を作畑に改めさせ、多少の奨励金を出して居るのと吻合《ふんごう》するところがある。養豚の如きもこれに触れないつもりであったのである。将来共に自家用程度の有畜はやるにしても、これに主力を置くような事はしたくないと思っている。
三十
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