だ名あって主のなき島と謂《い》うべきだから、我々に先取権が帰着すべき希望も充分あります。では、船へ帰って、この旨、一同に申し告げて、総上陸ということを決行しようではありませんか」
 白雲がこれを聞いて頷《うなず》き、
「結構ですね、そうして、いよいよ総上陸ということになりますと、まず第一に住居地の選定をして、上陸早々、住宅の建設に取りかからねばなりません、図面を一つ引いて行きましょうかね」
「そうして下さい、とりあえず海に近いところ、あの辺か、或いはこの辺がいいでしょう、材料は、近辺の、成長するあらゆる植物を、利用のできるだけ利用することですね」
「設計図は任せて下さい、拙者が、原始的で、そうして気候風土に叶《かな》う様式を創案してみますから」
「そう願いましょう。それから特に注意しなければならんことは、気候はこの通り温かいのですから、霜雪の難はありません、大河湖沼が乏しいから、洪水の憂いというものからも救われましょう、唯一の心配は風ですね、海洋の中の一孤島ですから、風当りは相当強いものと見なければなりません。しかし、波は岸を洗うとも、島をうずめるようなことはありません、海嘯《つなみ》
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