雲とが、二人の船夫《せんどう》をつれて、ムク犬をも乗組に加え、小舟でこの島に上陸を試むることになりました。残された船員一同は、そのいずれにも不安を感ずるということがなかったのは、出で行く人は、自分たちの頭ではわからぬ用意周到の船長であり、それと行を共にする田山白雲は、世に珍しい豪傑の一人ですから……それに、船長は精良なる銃器を持っているし、白雲は有力なる日本刀の二本を差している。船頭二人はこの道の熟達者であるし、ことにムクという奴が、未知未開の蛮地へ入り込んでは、必ずや人間以上の本能を発揮するに相違ない。たとえ鬼が出ようとも、引けは取らない――という信頼が充分だし、また船に残る者も、残された者も、僅かの航海の間に相互の協同精神が熟しきっている。ことに、七兵衛入道の肝煎《きもいり》ぶりというものが無類です。動かす必要のない船を預かる場合に於て、水も洩《も》らさぬ用心が、この入道の胸にあることも、船中の信頼の一つでありました。
二十
それから清澄の茂太郎が、逸早《いちはや》くメイン・マストの頂辺《てっぺん》に打ちのぼって、本船を離れて行く船長と白雲の一行を、視覚の及
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