たんかを切っている。それを取りまいて、いきり立っているのはたった今、岩倉三位へ献上物の一行に相違ありません。
 いったい、何がどうしたと言うんだ。何が行きがかりで、こうなったんだい。つまらねえいさかいをしなさんなよ。
 がんりき[#「がんりき」に傍点]は、加勢のつもりではない、取和《とりなだ》めのつもりで、例の馬力で一足飛びにその現場へ戻って見ました。

         十七

 大地を指さした宇治山田の米友が、生腕《なまうで》献上の一行を相手に、何をたんかをきっているかと聞いてみると、
「そんなら証拠を出しな、証拠を出してから物を言いな、なるほどと思う証拠がありさえすりゃあ、この場でおいそれと渡してやるよ、証拠がなけりゃあ、誰が何と言ったって渡さねえよ、たしかにこの袋が、お前《めえ》たちのもんだという証拠を見せてくんな、お釈迦様に見せても承知のできる証拠を出してみねえな、そうすりゃ、この場で文句を言わずに渡してやるよ、証拠がなけりゃ、誰が何と言ったって渡すこっちゃあねえ!」
と啖呵《たんか》をきっている米友。これと正面相対して、青筋を立てているのは、さいぜん、生腕献上の先手を承って
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