なかった。あの献上物なら、こっちが欲しいくらいなもんだが、さて、また何の由で、岩倉三位ともいわれる御仁《ごじん》が、あんな献上物を持込まれなければならないのか、また何の由であの奴らが、こんな献上物を持込んだのか、何が何やら、煙《けむ》に捲かれ通しで、居ていいか、立っていいかさえわからない。今日は幸先《さいさき》がいいと思って出て来てみると、現場へ来てはカスの食い通し。こんな日にゃ、出る目も出ねえ、ちぇッ面白くもねえと、がんりき[#「がんりき」に傍点]が唾を噛《か》んでやたらに吐き出しました。
そうすると、後ろ手の方で、またしても喧々囂々《けんけんごうごう》、人の罵《ののし》る声、騒ぐ物音、さあまた事が起ったぞ、喧嘩だな、喧嘩となれば、てっきり今の物々しい奴等、してまた、その相手は、待てよ、ことによると、おいらの御同行のあの気の早い、あんちゃん[#「あんちゃん」に傍点]じゃあねえかな。こいつ事だぞ、あのあんちゃんときた日にゃ、相手かまわずだからなあ、事だぞ!
がんりき[#「がんりき」に傍点]は宙を飛んで駈けつけて見ると、果して、宇治山田の米友が、石の上に腰をかけて、大地を指さしながら
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