返し――カッパと盆の上へ伏せられたものです。
「さあ、旦那、お張りなせえ、丁方なりと、半方なりと、気の向いた方をお張りなせえ」
「よし、丁と張った」
「勝負!」
と言ったがんりき[#「がんりき」に傍点]の百は、その壺皿を引起こすと、関守氏の眼で四つの小粒が行儀よく並んでいるだけ。
「さあ、持っておいで」
と言ってがんりき[#「がんりき」に傍点]は、その粒を消してみました。
 賽を見せられただけで、どっちが勝ったか負けたかわからない。つまり場面には丁と出たのか、半と出たのか、けじめがつかないうちに賽を消され、眩惑された関守氏が、
「いったい、どっちが勝ったんだ」
「はは、そりゃ素人衆《しとろうとしゅう》にゃわからねえ、今のは丁と出たんでげすが、四つじゃあおわかりになりますまい、二つで真剣にやりましょう」
と言って、小粒を握った手を耳もとへ軽くあてがった形で、がんりき[#「がんりき」に傍点]が言いました、
「四粒でやるなあ、玄人《くろうと》に限ったもんで、素人《しろうと》には見わけがつきません、二つでやりましょう、二つで……ごくすろもう[#「すろもう」に傍点]というところで伝授しようじゃご
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