ってがんりき[#「がんりき」に傍点]は、炉辺に飲みさしの関守氏の九谷の大湯呑に眼をつけました。
「よし来た」
 関守氏は異議なく、その茶がすを湯こぼしに捨て、がんりき[#「がんりき」に傍点]の前へ提供してやると、がんりき[#「がんりき」に傍点]の百は、左手に隠した四個の小賽を、左の耳元で、巫女《みこ》が鈴を振るような手つきに構えたが、関守氏は、その構えっぷりを見て感心しました。

         十一

 こいつ、ロクでもねえ奴だが、さすがにその道で、賽を握らせると、その手つきからして、もう堂に入ったものだ。
 四粒の天地振分けが、その中に隠れているのか、いないのか、外目《はため》で見てはわからない、軽いものです。もとより商売人の賽粒のことだから、軽少を極めて出来たものには相違ないが、それにしても軽過ぎるほど軽い、その手つきのあざやかさに、関守氏がある意味で見惚《みと》れの価値が充分ありました。
 そこで、耳元で振立てると、はっと呼吸が一つあって、振一振、左の小手が動いたかと見えると、天地振分けを四箇《よっつ》まで隠した五本(?)の指がパッと開きました。その瞬間、四粒の天地は、早くも
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