らが、種をわければ男と女、この二つに限ったものでげす。すなわち男でない人間は即ち女、すなわち女でなければ即ち男、というわけで人間の区別には、この二色しかござんせんよ、たまにゃ、ふたなり[#「ふたなり」に傍点]なんていうのがあるが、あれは出来そこないなんで、本来は有るものじゃございません。ところで数というものも、天地の間に、丁と半とこの二つだけに限ったもので、それを当てるのが即ちバクチの極意《ごくい》なんでございますねえ」
がんりき[#「がんりき」に傍点]が講釈をはじめました。これは驚くべきことで、手の人、足の人であったこの野郎は、今晩は口の人に転向してしまって、まかり間違えば、ここでもお喋り坊主の株をねらう奴が、やくざの中から現われようとは、ところがらとはいえ、ふざけた野郎と言わなければならぬ。これを、
「ふん、ふん」
と聞いているから、この手のふざけた野郎が、いよいよいい気になって、
「さあ、これは数の取引でござんすが、今度は物でござんすよ、この賽っ粒というやつが、バクチの方では干将莫耶《かんしょうばくや》の剣《つるぎ》でござんしてな、この賽粒の表に運否天賦《うんぷてんぷ》という神
前へ
次へ
全386ページ中49ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング