んだろう、フリにこっちとらが行ったって歯が立つめえがなあ」
と、いささかゲンナリしたのは、がんりき[#「がんりき」に傍点]の百に、中納言は少し食過《しょくす》ぎる。中納言の方でも、がんりき[#「がんりき」に傍点]の百などはあまり食いつけまい。そこで、百が、つまり位負けがしてしまった様子を不破氏が見て取って、
「中納言だからって、そんなに慄《ふる》えるこたあねえぞ、百五十石の中納言様だ」
と言って聞かせました。
「百五十石でげすか、位は中納言で、お高が百五十石でげすか、そんなこたあござんすまい、そりゃあ間違いでござんしょう」
「間違いではない、摂家筆頭の近衛家《このえけ》だって、千石そこそこだ」
「セッケはそうかも知れませんが、中納言様が百五十石なんてえな受取れねえ、水戸も中納言でござんしょう、三十五万石でげすぜ、仙台も中納言でござんしょう、六十四万石でげすぜ、百五十石ではお前さん、馬廻りのごくお軽いところじゃがあせんか、そんなはずはございませんよ、おからかいなすっちゃ罪でござんすぜ」
「からかうわけではないが、まあ、そんなことはどうでもいいから、行ってみろよ、そのトバへ。とても面白い面
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