点]の百のために、洛北岩倉村の地理を説くことかなり詳《つまびら》かなものであります。
その説くところによると、これから、日岡の峠を通って蹴上粟田口《けあげあわたぐち》へ出るが、三条橋は渡らずに、比叡山の方へとずんずん進んで、それ、名代の八瀬大原《はせおおはら》の方へ行く途中のところにその岩倉村というのがある。そこの岩倉村は岩倉中納言の領地で、大バクチはその中納言殿の屋敷の中で行われるのだ――という説明を皆まで聞かずに、がんりき[#「がんりき」に傍点]の百蔵が、急に白けきった面《かお》をして開き直り、
「へえ、上方じゃあ中納言様がバクチを打つんでげすかエ」
「いや、中納言殿がバクチを打つのではない、その岩倉村の山ふところにある中納言殿のお屋敷の中で、大トバの開帳が行われると言うのだ」
「へへえ、考えやがったな、江戸でも御老中の屋敷の中なんぞで、そいつが、しょっちゅう御開帳になるんですよ、仲間《ちゅうげん》や馬丁《べっとう》が、寄ってたかって御老中のお馬屋の中で、しゃそじょうこ[#「しゃそじょうこ」に傍点]てやつをきめこむんでさあ、御老中でさえその位なんだから、中納言様ときちゃあ豪勢なも
前へ
次へ
全386ページ中44ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング