ら断念して参学を控えよう、今後は、上人をお訪ね申すことをやめよう、こう思って、上人の前へ出ますと、私が何も言わない先に、上人が、これ秀才、お前の考えていることは人情だが、わしの方はかまわない、その道のために、いくらお前がわしに附きまとっても苦しくない、かように亡き上人が仰せられましたので、はっとしました。扉一つを隔てて、私の思うところ、これから述べようとする意志が、すっかり上人に予知されてしまったのです。私がいよいよ真剣に声明の学に精進することになったのは、それからのことで、同時に声明は即ち無声なり、無声の声を聞かざれば、声明の神《しん》に通ずること能《あた》わずと悟ったのもそれからのことです。それまでは、趣味としての声明、科学としての音律の研究にうき身をやつしたのでありますが、それではいけないことをさとりました」
「無声の声は、禅家《ぜんけ》のいわゆる隻手《せきしゅ》の音声《おんじょう》といったようなものでございますか」
「いや、それとは少しく違います、声明家は禅家のような独断論法を嫌います、信仰者でなければならないが、同時に、科学者でなければならないのは一つの資格といえるでしょう。
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