したからといって、本場の江戸っ子に、あんな奴がありっこはない。
 時勢は、どうか知らないが、お膝元のこの醜態はどうだ。
 神尾主膳の面は、赤怒から白怒に変って行くもののようであります。

         六十八

 昌平橋を渡って姫稲荷《ひめいなり》のところへ来ると、そこにまた人だかりがあります。見ると願人坊主《がんにんぼうず》がチョボクレをうたっている。
 本来、願人坊主はチョボクレを語るべきものではない。これは東叡山の配下で、寒い朝でも赤裸で、とうとうと言って人の門《かど》に立って銭貰《ぜにもら》いをするのだが、無芸と無頼とを以て聞えている。どうかすると謎々《なぞなぞ》のようなものを持って来るのもある。一文人形を並べて、これはこれでも王子の稲荷の大明神、色は白くも黒助稲荷なぞと出鱈目《でたらめ》を言って、一文人形を二三十も並べて、いちいち名前をくっつけて銭貰いをすることなんぞは、芸ある方のうちだが、この願人坊主は、能弁にチョボクレを唱えているところを見ると、願人坊主としては知能のある方だと思って、暫く耳を傾けていたが、その文句に何ぞ思い当ることがあると覚しく、一くさり終ると、渡り
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