淋《さび》しいところに」
「それでお察しなさいよ――わたしは尼さんなのよ」
「ははあ、尼さんですか、寂光院には美しい尼さんがいるという話だが、それが、あなたなのでしたか」
「美しいかどうか、そこは保証ができません、昔は美しかったかも知れません、なにしろ五十三ではねえ」
「尼さんにしては、粋《いき》な尼さんですね、砕けた尼さん」
「今は尼さんですけれど、前身は何だと思召すの」
「また、はじまったな、八卦人相見《はっけにんそうみ》に頼まれて来たようだ」
「では、そういう話はやめて、あなたの一代記を伺いましょう」
「長いからなあ」
「夜が明けてもかまいません」
「後刻、ゆっくりお聞かせ致しましょう、今晩は疲れておりますから、寝《やす》ませて下さい」
「そうそう、わたしとしたことが、自分ばかりいい気になって、では、お寝みなさい」
「いいですか、泊めてもらっても、あなたのお迷惑にはなりませんか」
「なりませんとも。なるくらいならばお泊め申しは致しません」
「あなた御自身はいいとしても、周囲がうるさいようなことはありませんか」
「ありませんとも。ありましたとても、そこが世捨人の強味というものでしょ
前へ 次へ
全386ページ中302ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング